それは、無声映画で起こっていることや出来事や人物の動きを、音声で説明するという企画である。目が見えない人ともサイレント映画の感動を分かち合うということを目指した。
選んだ映画はチャップリンの名作『街の灯』。物語は、ある貧しい男が、泥酔して自殺しようとしていた富豪の男性を助け、その富豪からもらったお金で、盲目の花売りの娘から花を買うというところから始まる。都会の片隅で起こるちょっと切ない話である。
「今思うとかなりチャレンジングな企画だったので、周囲のみんなも本当にできるかどうか半信半疑だったようで、まあやってみたらみたいな感じでしたね。詳しい活弁(活動写真弁士)のようなイメージで、映画の解説を事前にテープで吹き込んで会場で流すことを考えていました」
結果として、『街の灯』上映会は諸事情により中止になってしまった。しかしそのとき、視覚障害者の人々が平塚さんに声をかけた。
「僕たちは、最初からチャップリンなんてハードルが高いんじゃないかと思って心配してた。チャップリンはもういいから、僕たちはいま映画館でやっている映画を見たい」
なるほど、そういうニーズもあるのかと平塚さんは改めて気がつかされた。さっそく調べてみると、たとえばアメリカでは、音声ガイドシステムやキャプションが見られる設備を搭載した「バリアフリー映画館」が100館以上も存在していることがわかった。
「ハリーポッターの公開初日に全盲の人が映画のレビューとか書きこんでいたりして、ああ、アメリカではバリアフリー映画がものすごく浸透してるんだなと思いました。それまでのわたしには、どこかで偏見があって、見えない人が言葉で映画を楽しみたいと思っていることを信じ切れていなかったと思うのです。しかし、その記事を読んで、アメリカのこれだけの劇場にバリアフリー設備が備えられてるってことは、見えない人が映画を見るというニーズは確かにあって、ただ日本が遅れてるだけなんだとわかりました。それからですね。団体を立ち上げて、それを専門にして活動していこうって」