未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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イタリア人に認められたジェラティエーレの軌跡 ビオジェラートの甘い誘惑

文= 川内イオ
写真= 川内イオ
未知の細道 No.217 |12 September 2022
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#8おじいさんとチョコレート

磯部さんには、理想のジェラート屋さんがある。初めてイタリアに行った時にたまたま立ち寄った、オーストリアとの国境の山の中にある小さな商店だ。そこはパンや飲み物、お菓子なども売っていて、片隅にジェラートのショーケースが置かれていた。

季節は真冬で、お客さんはほかにいなかった。磯部さんは、店頭に立っていたおじいさんにチョコレートのジェラートを注文した。そのおじいさんは、ゆったりとした動作でコーンにジェラートを盛りつけた。そのジェラートを食べた瞬間、磯部さんは目を見開いた。

「もうやたらおいしくて なんだこれって。それまで食べたことないような味で、なんでそんなにおいしいのか、理解できませんでした」

今では、店の名前も、どこにあるのかもおぼえていない。でも、磯部さんの目と舌には、おじいさんの姿とジェラートの味が焼き付いている。

「ぼくが目指す最終形態は、ああいう感じかなと思っています。年をとってもジェラートを細々と続けて、ゆっくりやれればいいかなぁ」

ジェラート職人を目指す人の研修も受け入れている磯部さん。
  • 僕が注文したピスタチオ、マンゴー、プラムのトリプルを磯部さんに作ってもらった。

 ひと通りの話を聞いた後、ピスタチオ、マンゴー、プラムのトリプルを注文した。どれも、最初の一口は夏の日差しにとろけるように濃密で、それなのに後味は雲一つない青空のように爽やかで、「なんだこれ!?」と脳内がスパークした。僕はジェラートの素人だし、グルメにも詳しくないけど、もしかしたら磯部さんはシチリアのイベントに最後に参加した2019年からの3年間で、イタリア人を驚愕させるレベルに進化したのでは? と感じた。

そして、思った。夏休み中ということもあってか、クアットロパンキーネには子どもがたくさん来ていた。磯部さんがイタリアのおじいさんに憧れたように、磯部さんのジェラートを食べて、ジェラティエーレを夢見る子どもがいるんだろうな。

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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
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