この体験が大きな転機となり、およそ20年務めた会社を辞めて独立することになる。かつての同僚にその話をした時、「一緒にやろう」と盛り上がり、2017年、横浜市青葉区に立ち上げたのがクアットロパンキーネだ。
店の名前は、「4つのベンチ」という意味のイタリア語。相棒がイタリア留学していた学生時代、いつも友だちと待ち合わせする場所に4つのベンチがあり、仲間内で「じゃあ、今日もクアットロパンキーネで!」と合言葉のようになっていた。それで「いろいろな人が集まる場所になればいいな」という想いを込めたという。
お店をオープンするにあたり、ジェラートに使うものは自然素材にこだわった。先述したように、乳化剤、安定剤の代わりに、米粉、こんにゃく、イヌリン(菊芋などの主成分のひとつである食物繊維)を使用している。これは、決して簡単な変更ではなく、何度も試作を重ねたという。そこまでするのは、安心感と味を両立させるためだった。
「自分がよくわからないものを口に入れたくないし、売りたくないから、誰もが知っているものだけで構成しようと思ったんですよね。日本人なら、米とこんにゃく、菊芋はなじみがあるじゃないですか。それに、安定剤や乳化剤を入れると、フレーバーをマスキングしちゃうんですよ。素材そのものの風味や香りが消えちゃうんです。だから、自然のものだけで作った方が絶対においしい。それに、イタリアではだいぶ前からビオが当たり前で、僕が知っているジェラート屋さんはみんな自然素材しか使っていないので」