未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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イタリア人に認められたジェラティエーレの軌跡 ビオジェラートの甘い誘惑

文= 川内イオ
写真= 川内イオ
未知の細道 No.217 |12 September 2022
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#2「会社員をやるより、お店で働きたい」と思った理由

平日の昼間にも関わらず、お客さんが絶えない。

青葉台駅からほぼ直線、並木道沿いにあるお店には、入れ代わり立ち代わり、お客さんが訪ねてきていた。子ども連れのお母さんから、ポロシャツ姿の紳士まで客層は幅広い。ジェラートを受け取ると、ほとんどの人がイートインできるお店のなかか、お店の外に置かれたベンチで、ペロリと食べ始める。「お、い、し、そ、う」という心の声に耳をふさぎつつ、イタリアで受賞経験のあるジェラティエーレでこのお店のシェフを務める磯部浩昭さんに話を聞いた。

福島出身で、埼玉の大学に進学した磯部さん。学生時代は、アルバイトで稼いだお金を飲み会と遊びと旅行に費やす、どこにでもいる若者のひとりだった。就職を考える時期になって、「会社員をやるより、お店で働きたい」と思ったのは、伊豆のペンションでのアルバイトが影響したという。

「夏休みに1カ月ぐらい、住み込みで働いたんですよ。朝起きて、お客さんの朝食の準備をして、配膳をして、洗い物をして、客室のベッドメイキングをして、リネンを回収して、昼間は遊んで、夜は夕飯の準備を手伝うという毎日でした。このアルバイトがすごく楽しくて、お客さんに食べ物やサービスを提供する仕事って面白いなと」

就職活動に熱心ではなかった磯部さんは、大学4年生の秋、アルバイト雑誌でたまたま見つけたイタリアレストランの「社員募集」に応募。料理の知識もレストランで働いた経験もなかったため、面接の時に「君、レストランは無理だね」と言われてしまったのだが、その会社の主力事業はジェラートの製造機器の輸入販売で直営店もあり、「ジェラートのほうをやってみない?」と誘われた。その場でよくわからないまま「わかりました」と答えて、採用された。

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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
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