街の中心にあるホテルから出てすぐに、須藤さんは大きなイチョウの木の前で止まった。水戸駅前の通り「銀杏坂」の由来にもなったというイチョウだ。太平洋戦争末期、水戸大空襲で丸焼けになった大通りに、この一本の木だけが残ったという話を、須藤さんはていねいに説明する。
通りに続く階段を上り、水戸駅北口広場へ。ここで須藤さんは、大きなスケッチブックのようなものをめくり出した。この旧式なプレゼンテーションは……! 「紙芝居」ではないか?!
「みなさん、まずは昨日の試合おつかれさまでした!」と、茨城ロボッツのブースター(バスケットボールにおける熱狂的なファンのこと)たちをねぎらう須藤さん。前夜の試合は残念ながら2点差で惜敗した。さらに手製の紙芝居を一枚ずつめくって、対戦相手の情報を織り交ぜながら、水戸のトリビアを解説していく。水戸市内の道路幅についての豆知識など、都市計画に基づいた解説が多いのも市役所職員ならではの視点だ。
しかしキリッと背筋を伸ばし、理路整然と水戸の歴史と町並みを、時にバスケットボールの話を交えながら紙芝居で解説する、蝶ネクタイとスーツ姿の男性……。なんだろう、このギャップは……! そして、なにゆえに紙芝居なのか……? 不可思議な気持ちと同時に、おかしさがこみ上げてくる。
さらに歩いて、水戸城趾の大手門へと向かう。先導する須藤さんは、私たちが歩いている道が「実は江戸時代には水戸城のお堀だったんですよ」などと、街の小さな秘密を紹介していくのだ。
聞いているブースターたちも、「へえー、なるほど!」と興味津々だ。