さて、このあたりで本屋物語を終えてもよかったのだが、私はさらにもう一軒の本屋を訪ねることにした。こちらは、年が離れた兄弟のようなふたつの本屋の物語である。
東横線の妙蓮寺駅から歩いて2分のほのぼのした商店街。子供からお年寄りまでがゆるやかに歩いく人の流れのなかに、『本のオアシス 石堂書店』はある。今年で創立73年を迎える老舗の書店。その斜向かいにあるのが本屋・生活綴方で、今回の旅の目的地である。
私が訪ねた日は、冷たい雨が強く降っていた。むちゃくちゃ寒いなあ……と思いながらびしょ濡れになった折りたたみ傘を畳んでいると、生活綴方の店長の鈴木雅代さんに「こちらにどうぞ!」と声をかけられた。招かれたのは、書店の奥にある小上がりのような不思議なスペース。その真ん中には、でーん! とこたつが置かれている。すごい、こたつがある本屋なんて面白いぞ。ぬくぬく!
ここで話を聞くべき人物は3人いた。トップバッターは、石堂書店3代目店主の石堂智之さん。父から書店を引き継いだあと、書店の名の通りに「オアシスに人が集まるように、本を介して人と人がつながる場、日々の暮らしの憩いの場、地域の文化が育つ場にしていこう」と日夜店頭にたっていた。
しかし、書店経営の旅路の先に見えてきたのは、むしろ砂漠の方だった。90年代半ばから始まった出版不況は年々深刻になり、業界全体に閉塞感が漂い始めた。
「売上も落ちていくし、追い詰められている状況でした。どうしたら良いのかもわからず、毎日、朝起きたときは頑張ろう!と思うのですが、夕方になると今日もまずいな……、その繰り返しでした」
それでも馴染みのお客さんはいて、ここに寄ることを楽しみにしてくれる人もいた。地域の学校の小学生がやってきて「こんにちは」と挨拶されるたびに、「この日常の風景をなんとか残したい」と思った。しかし、事態は悪化の一途をたどる。書店の建物も老朽化が進み、借り入れも増え、もう本当にまずいぞ、待ったなし! という状況に陥った。そのギリギリのタイミングで石堂さんは、助けてください!と声をあげた。