未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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「相撲が好きじゃけん」日本で一番相撲を愛する町で167年続く伝統の相撲大会

乙亥(おとい)大相撲を愛媛へ見に行く

文= 和田静香
写真= 和田静香
未知の細道 No.128 |25 December 2018
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#6相撲が好きじゃけん

乙亥の土俵を見つめ続けて来たスー女の赤松優子さん

 教えてくれたのは会場のお手伝いをしていた赤松優子さん。彼女は野村に生まれ育った、生粋のスー女。生まれたときからずっと乙亥大相撲を見て来た。
「乙亥に出ると、力士は出世すると言われてます。私が子どもの頃に曙が大関で来て、『次は横綱になって戻ってきます』と言ったら、本当に横綱になって戻って来てくれた」んだそう。

 取組の合間には「力飯(ちからめし)」と「御樽(おんたる)」がお客さんにふるまわれる。それを頂くと、これから一年元気で暮らせる縁起物だというから私も手を伸ばした。お赤飯と日本酒。おいしー!

  • 「力飯(ちからめし)」と「御樽(おんたる)」(左)、力飯(ちからめし)をお客さんにふるまう様子(右)
子供力士たち、みんな堂々としている

 そして土俵では、ゲストで来た相撲芸人のあかつさんが初っ切り(相撲の禁じ手を面白可笑しく見せる出し物)に参加し、地元の還暦力士(!)龍王山とお笑い相撲を見せてくれた。まるで懐かしのドリフのギャグのようで、声を出して笑った、笑った。また、大相撲の幕内力士、勢関も登場し、地元の赤ちゃんを抱っこして土俵入りを披露する「稚児土俵入り」を行った。赤ちゃん1人かと思いきや、次々赤ちゃんが登場して、なんと45人も! 勢関は汗を拭き拭きやってたけど、こりゃ大変だ。

  • 初っ切りで見せた相撲芸人あかつさんの日馬富士の仕切りマネ(左)、勢関による稚児土俵入り(右)

そうこうするうち、椅子に座って一休みする行司さんを見つけた。大相撲と同じ行司の装束を着て、伸びやかな声で堂々と務める。実は乙亥のドンじゃないのか?と思って声を掛けると、
「私は30年、この行司をしております」
と言う。やっぱり! 乙亥の最年長ですか?
「いや、71歳、まだまだ先輩はおります。最初は青年力士で参加し、あるとき『行司をやらないか?』と誘われて始めたんですわ。子どもの頃からなにせ相撲が大好きやで、ラジオでずっと聞いてましたから、行司がどういう風に言うのか全部覚えてたんです。この装束は相撲協会からお古でもらったんですけど、今回も奇跡的に流されることなく無事やったんですわ。私はここで行司を始めてから、東京でアマチュア相撲の審判の資格も取りました。それが建設業の仕事中の事故で生き埋めになってしまい、一人が亡くなり、私も95%死ぬと言われてたらしいです。身体中84か所も骨折して、うまくいっても寝たきりだろうって。でも、もう一回乙亥で行司がやりたい、その思いだけで頑張って、戻ってきました。なにせ、相撲が好きじゃけん。まだまだ、自分がやらなきゃならんかもと思うとります」

御年71才の行司さん、30年間「乙亥大相撲」行司を務めているそう

 相撲が好きじゃけん。乙亥大相撲を支えてきたのは、町の人たちのその思いだ。その思いに、野村の外の人たちも引き込まれていく。そうやって167年続けてきた。

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未知の細道 No.128

和田静香

1965年千葉県市川市生まれ、静岡県沼津市育ち。投稿から音楽雑誌「ミュージック・ライフ」のライターに、同じくラジオ番組への投稿から音楽評論家/作詞家の湯川れい子のアシスタントに。業務のかたわらで音楽雑誌に執筆を始める。最近では音楽のみならず、相撲を始め、エンタメ・ノンフィクションを数多く執筆。「わがままな病人vsつかえない医者」(文春文庫)、「評伝・湯川れい子 音楽に恋をして♪」(朝日新聞出版)、「東京ロック・バー物語」(シンコー・ミュージック)、「おでんの汁にウツを沈めて~44歳恐る恐るコンビニ店員デビュー」(幻冬社文庫)、「スー女のみかた~相撲ってなんて面白い!」(シンコ―ミュージック)がある。

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