未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
128

「相撲が好きじゃけん」日本で一番相撲を愛する町で167年続く伝統の相撲大会

乙亥(おとい)大相撲を愛媛へ見に行く

文= 和田静香
写真= 和田静香
未知の細道 No.128 |25 December 2018
この記事をはじめから読む

#4相撲が好きだから野村町に集まる高校生

相撲強豪高校の選手たちによる3人抜きが始まる

 話をしているうちに招待選手たちによる取組が始まった。最初は相撲強豪高校の選手たちによる3人抜きから。休みなしに1人の力士が続けて3人に勝つと『勝利』となる。1人が3人勝ち抜くと、また次の1人が3人勝ち抜く。勝ち抜くまで続くガチで厳しい戦いがいきなり土俵で始まってビックリだ。土俵に上がる選手は館内放送で紹介される。

  • 招待選手と招待力士の一覧

「西方(にしかた)鈴木、飛龍高校3年、東方(ひがしかた)、小池、野村高校三年」
 2人が土俵に上がると声援がすごい。「がんばれ野村の子!」「がんばれ飛龍の子!」
「はっきよーい、のこったのこったのこった!」
「わあああああああ!」
 相撲場らしい声と興奮した歓声が響く。
「寄り切って鈴木の勝ち。差し替えまして由留部、野村高校相撲部3年であります」
 負けた方から、次の選手が登場して土俵に上がる。
「はっきよーい、のこったのこったのこった!」
「わあああああああ!」
「小手投げにて、鈴木の勝ち」

  • 呼び出しさんに呼ばれて土俵にあがる高校生たち(左)、取組も高校生とは思えない迫力がある(右)
相撲場らしい声と興奮した歓声が響く

 負けてしまった由留部くんが土俵から降りてきたところを捕まえた。
「どうでしたか?」
「いやぁ、強かったです」
「野村で生まれ育ったんですか?」
「自分は福岡です。元々兄が来ていたので僕も今は野村に住んで高校に通っています。福岡とはだいぶ違い、普段から身近に相撲があって、みんな相撲が大好きなんです」

野村高校相撲部の選手たち。一番左が由留部くん

 勝った鈴木君にも話を聞いた。彼は静岡県沼津市にある飛龍高校の生徒。どうして乙亥相撲に来たんだろう?
「去年の国体で野村町に来たときに民泊させてもらい、町の人たちにお世話になりました。だから7月の豪雨災害の後、ボランティアに来たんです。今回はその縁で参加させもらっています」

 由留部くんも鈴木くんも相撲が大好きだから、野村町へやって来た。鈴木君は同じ高校に通う、一緒にボランティアにも来た内モンゴルからの留学生アスハダくんや、中村くんとも共に参加していた。相撲に青春を懸ける子たちが集まる乙亥大相撲。なんだか映画にもなりそうじゃないか。

飛龍高校相撲部3年生たち。左から中村くん、アスハダくん、鈴木くん
このエントリーをはてなブックマークに追加


未知の細道 No.128

和田静香

1965年千葉県市川市生まれ、静岡県沼津市育ち。投稿から音楽雑誌「ミュージック・ライフ」のライターに、同じくラジオ番組への投稿から音楽評論家/作詞家の湯川れい子のアシスタントに。業務のかたわらで音楽雑誌に執筆を始める。最近では音楽のみならず、相撲を始め、エンタメ・ノンフィクションを数多く執筆。「わがままな病人vsつかえない医者」(文春文庫)、「評伝・湯川れい子 音楽に恋をして♪」(朝日新聞出版)、「東京ロック・バー物語」(シンコー・ミュージック)、「おでんの汁にウツを沈めて~44歳恐る恐るコンビニ店員デビュー」(幻冬社文庫)、「スー女のみかた~相撲ってなんて面白い!」(シンコ―ミュージック)がある。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。