10代力士2人のキラキラ笑顔にスー女はメロメロになり、上機嫌で公会堂に入ると、地域の小学生、中学生、一般の部に分かれて団体戦を繰り広げていた。小学生も中学生も参加するだけでなく、応援にも来ている。あれ? 学校は?
「乙亥大相撲は学校の行事になってまして、全員で応援に来てるんですよ」
そう教えてくれたのは、会場内で大きなカメラを構えて熱心に撮影していた大塚さん。聞けば、町の写真屋さんで、経営する写真館も浸水したという。
「1階はぜんぶ浸かりました。スタジオは2階にあって免れたけど、大事な機材は流されました。それでこれ(首から提げているカメラ)は新しく買ってね。野村町商店街は240~250店舗あるけど、みんな何かしら被害を受けてるんで、本当に復興するにはもうちょっと時間がかかります」
それでも大塚さんは笑顔で今日この日に乙亥大相撲が開かれ、そこに居ることを心から楽しんでる様子だ。
「乙亥は野村町にとって段トツに大切で、戦争のときだって先輩方が休まないでやっていた。開催するかどうかみんなで話し合ったんですが、5分で『やろう、やらなきゃ』って決めたんですよ。私たちはみんな(力士の髷を結うのに使う)鬢づけ油の匂いとか、小さい頃から馴染んでいます。昔は小学校が7つ8つあって、そのどこにも土俵があった。相撲は野村の生活の中にあるんです」
団体戦は小学生が17チーム76名、中学生が16チーム64名、一般が15チーム100名参加した。山間の小さな町である。なんでこんなに相撲を取ってるんだ?
「小学校には必ず土俵があって、それが当たりまえだったんで、逆によそにはないと言われて、そうなんだ?と思いました。誰でも相撲を取るのが普通です」
何故相撲を取るのか? 教えてくれたのは、ミスター乙亥とも呼ばれる山田さん。中学2年から乙亥大相撲に参加して、途中大学で欠場するも、戻ってから46才の今までずっと相撲を取り続けている。
「いや、一年中やってるわけじゃないですよ。乙亥の前になるとみんな集まって、地区ごとに土俵で、まわしを巻いて稽古するんです。勝ちたいから、やるんです。団体戦は地区ごとに戦うんで、自分のとこに優勝を持って帰りたいっていうプライドがあります。裸でやるからケガもするし、この時期はもう寒いですけど、それでもやるのは、それ以上のものがあるんですよ。相撲が好きなんだと思います。自分はそうじゃないと思ってたのに、好きなんですね」
勝ちたいから、プライドがあるから、好きだから。だから相撲を取る。今年は団体戦しか行われなかったので、なんと日を改め、12月上旬に個人戦が行われたというから、本当に相撲という勝負に懸け、好きでたまらない人たちだ。
和田静香