未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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「相撲が好きじゃけん」日本で一番相撲を愛する町で167年続く伝統の相撲大会

乙亥(おとい)大相撲を愛媛へ見に行く

文= 和田静香
写真= 和田静香
未知の細道 No.128 |25 December 2018
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#2未来の横綱候補がお餅つき!

「乙亥会館」の入口には色鮮やかなのぼりが立ち並ぶ

 会場の「乙亥会館」に到着すると、すでに会館前の広場には大きな人だかりが。慌ててその輪に加わると、この2日前まで九州場所を沸かせていた大相撲の力士たちが餅つきをしているではないか! なんと、昭和の大横綱・大鵬の孫の納谷(なや)が餅をつき、朝青龍の甥っ子の豊昇龍(ほうしょうりゅう)が「ヨイショヨイショ」とかけ声をして沸かせている。二人は未来の横綱候補! スー女のテンションはいきなりマックスに上り、町の人たちもスマホをかざして大騒ぎだ。つきあがった餅を二人が配り始めると、ダダッと駈け寄る町の人たち! さすが相撲の町、立ち上がりが速い! 一瞬で餅はなくなった。

餅つきをする納谷(左)、かけ声をして沸かせる豊昇龍(右)
  • 町の人たちは力士のお餅つきにスマホをかざして大喜びだ(左)、つきあがった餅を配る納谷。このあと一瞬で餅はなくなった(右)

 餅の争奪戦に敗れて乙亥会館に入った。ここは2005年に建てられた、立派な土俵と桟敷席、さらには相撲の稽古場もある町のシンボル的建物。近年の乙亥大相撲はここで大々的に開かれてきたが、中に入って7月の豪雨の爪痕をまざまざと見せつけられることになる。1階にあった土俵は跡形もなく、地下にあった相撲稽古場は泥だらけ。壁は破れ、天井まで泥水が残した跡が付いている。今年の乙亥大相撲はここでの開催はならず、代わりに水害と復興の様子を撮った写真展「コノ夏ノ野村ノコト」が開かれていた。さっきまで明るく餅つきをしていた若い力士も、神妙な面持ちで写真を見つめいている。ここは7月から時間が止まったかのようだ。

  • 「乙亥会館」1階にあった土俵は跡形もなくなっていた(左)、「乙亥会館」地下の相撲稽古場、現在は利用されていない(右)
「乙亥会館」1階では水害と復興の様子を撮った写真展「コノ夏ノ野村ノコト」が開かれていた

 しかし、水害からの復興を願うからこそ今年の乙亥大相撲は開催された。存分に楽しむことが何よりだと気を取り直し、今年の会場である「野村公会堂」へ向かうと、先ほど餅をついていた納谷と豊昇龍がいるではないか。日ごろは写真は撮れても、滅多に話を聞く機会のない二人に声を掛けてみた。
「納谷さん、豊昇龍さん、おつかれさまです~!」

納谷「お餅つきはあんまり得意ではないんで、なんとかこなせてよかったです。喜んでくれたのが、とても嬉しいです。野村町の人たちはおせっかい、って言うと言葉が変ですけど、それぐらいみなさんが優しくて、大好きな町です」
豊昇龍「自分はこういう静かな田舎が大好きなんです。とてもゆっくりできます。1年前に国体で野村町に来ました。そのときに1つ負けているので今日はリベンジです。けど、それよりはみなさんが喜んでくれる相撲を取れればいいです」

豊昇龍(左)と、納谷(右)
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未知の細道 No.128

和田静香

1965年千葉県市川市生まれ、静岡県沼津市育ち。投稿から音楽雑誌「ミュージック・ライフ」のライターに、同じくラジオ番組への投稿から音楽評論家/作詞家の湯川れい子のアシスタントに。業務のかたわらで音楽雑誌に執筆を始める。最近では音楽のみならず、相撲を始め、エンタメ・ノンフィクションを数多く執筆。「わがままな病人vsつかえない医者」(文春文庫)、「評伝・湯川れい子 音楽に恋をして♪」(朝日新聞出版)、「東京ロック・バー物語」(シンコー・ミュージック)、「おでんの汁にウツを沈めて~44歳恐る恐るコンビニ店員デビュー」(幻冬社文庫)、「スー女のみかた~相撲ってなんて面白い!」(シンコ―ミュージック)がある。

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