次に案内されたのは、なんと! 5階建てのビルの壁面に目一杯描かれた壁画。高さは20メートルである。
「うわあ、これはめちゃくちゃ大きいですねー!」
驚嘆しながら、通りの向こう側から壁画を眺めた。距離を置かないと全体が見えないほど大きいのだ。
描かれているのは、大きく翼を広げる鳥。かなり緻密で写実的に描かれているが、その幻想的な背景画とあいまって、シュールな雰囲気を醸し出す。壁面には小さな窓やパイプも通っているのだが、それすらも絵の模様の一部のように見えてくる。
作画を担当したのは、大阪に拠点を置くペインターユニット『whole9』。2017年の高円寺の阿波踊り大会の前夜祭にあわせて、約二週間にわたり公開制作された。
こんな大きな壁画を日本でみたのは初めてだ。
だからだろうか。ここはニューヨーク? それともパリ? という不思議な感覚に包まれる。
いやいや、周りを見回せばやっぱりここはやっぱり高円寺なのだ。
「見た人は、たいてい(こんなことをやってしまって)いいんだ!って、驚きますね。でも、自分がよく知っている世界だけがこの世界のすべではないと知らせたいんです。既成概念を壊して、それまで見えなかったものを見せる。そういうことができるのがアートだし、僕はやりたいと思うんですよね」
いやー、それにしてもデカい! どうやってこんなに大きな壁を見つけたのだろう?
「普段から街を歩いてロケハンしながら、いろんな壁を見つけると情報をストックしておきます。あとは、『うちの壁にも描いて欲しい』というオーダーが建物の持ち主からくることもあります。壁画って公開制作なので、完成しているものよりも、製作中の方が刺激的で面白いんです。だから、絵を描いている最中に気になって様子を見にきて、うちにも描きませんかって」
そうやって、オーナーから依頼を受けて制作したのが、この特大級の鳥の絵なのだそうだ。ここまで大きいと、きっと制作も容易ではないのだろう。
「そうですね、でも一番大変なのは制作に入る前。自分の中では、アーティストが実際に壁画を描き始められ時点で、仕事の八割五分が終わってる感じです」
えっ、そんなに事前の準備が大変なんですか?
「使う色の種類とか素材とかを役所に申請したり。地域によっては、外壁に使用できる色彩が決まっていたりするんです。それに、『絵』は広告物として扱われるので、仮にオーナー自身が絵を描きたいと思っても許可がなくてはできないんですよ」
こうして、度重なる地元の人とのディスカッション、そして「規制」というハードルを超えて、数々の壁画がこの街に生まれつつある。
川内 有緒