未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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高円寺に出現した謎の巨大壁画を探せ!

街の“予定調和”を崩すアート

文= 川内有緒
写真= 川内有緒
未知の細道 No.119 |10 August 2018
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#3狼と眠る部屋

ホテルの廊下にもアート作品がいっぱい。作品を購入することもできる。

 さっそく客室を案内してもらう。廊下は雑居ビルのような雰囲気だが、客室ドアを開けると、奥の大きな窓から柔らかな日差しが入り、気持ちが良さそうだ。
 驚くのはこの部屋の壁! ひゃー!

 全面にカラフルな狼の群れが描かれ、あたかも何かに飛びかかっていくようにふわーっと浮かんでいるのである。
「おおお、かっこいいですね!」と巨大な狼たちを見上げた。
 作品が壁に描かれているというよりも、作品世界に包まれている感じ。
 いや、見方によっては、この部屋自体が巨大な作品ともいえそうだ。そう、ここはアート作品とともに眠れるホテルなのだ。

カラフルな狼の群れが描かれた客室

 この作品を制作したのは、Yohei Takahashiさん。鮮やかな色彩によって躍動する生物を描く、ライブペインターとしても活躍するアーティストである。
「知名度ではなく、自分がフィーチャーしたいアーティストを選びました。誰かのアートに泊まる体験ってきっと忘れないと思うんですよ。美術館やギャラリーではちょっと見るだけで、さあっと流れてしまう。でも、ここでは十数時間も作品を占有できる。そういう場所はなかなかないと思って」(大黒さん)
 特に面白いのはその仕組みで、宿泊代の一部はアーティストに還元される。
「アーティストにとっても、『一発作品を作って終わり』ではないし、お客さんもホテルにお金を払って作品を体験する。それによって、作品作りへの参加意識をかき立てられる」
 それは、全く新しい旅行体験とアーティスト支援の仕組みだろう。
 ホテルをオープンして現在で約二年。アートと一緒に眠るという珍しいコンセプトのおかげで、お客さんは世界中から集まってくる。なかには米国の起業家やアジアのクリエイター集団も現れた。
「全体的には欧米のお客さんが圧倒的に多いですね。アートホテルが面白い人を勝手に世界中から集めてくるんですよ。実はお客さんの方が断然面白かったり!」

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未知の細道 No.119

川内 有緒

日本大学芸術学部卒、ジョージタウン大学にて修士号を取得。
コンサルティング会社やシンクタンクに勤務し、中南米社会の研究にいそしむ。その合間に南米やアジアの少数民族や辺境の地への旅の記録を、雑誌や機内誌に発表。2004年からフランス・パリの国際機関に5年半勤務したあと、フリーランスに。現在は東京を拠点に、おもしろいモノや人を探して旅を続ける。書籍、コラムやルポを書くかたわら、イベントの企画やアートスペース「山小屋」も運営。著書に、パリで働く日本人の人生を追ったノンフィクション、『パリでメシを食う。』『バウルを探して〜地球の片隅に伝わる秘密の歌〜』(幻冬舎)がある。「空をゆく巨人」で第16回開高健ノンフィクション賞受賞。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。