さっそく客室を案内してもらう。廊下は雑居ビルのような雰囲気だが、客室ドアを開けると、奥の大きな窓から柔らかな日差しが入り、気持ちが良さそうだ。
驚くのはこの部屋の壁! ひゃー!
全面にカラフルな狼の群れが描かれ、あたかも何かに飛びかかっていくようにふわーっと浮かんでいるのである。
「おおお、かっこいいですね!」と巨大な狼たちを見上げた。
作品が壁に描かれているというよりも、作品世界に包まれている感じ。
いや、見方によっては、この部屋自体が巨大な作品ともいえそうだ。そう、ここはアート作品とともに眠れるホテルなのだ。
この作品を制作したのは、Yohei Takahashiさん。鮮やかな色彩によって躍動する生物を描く、ライブペインターとしても活躍するアーティストである。
「知名度ではなく、自分がフィーチャーしたいアーティストを選びました。誰かのアートに泊まる体験ってきっと忘れないと思うんですよ。美術館やギャラリーではちょっと見るだけで、さあっと流れてしまう。でも、ここでは十数時間も作品を占有できる。そういう場所はなかなかないと思って」(大黒さん)
特に面白いのはその仕組みで、宿泊代の一部はアーティストに還元される。
「アーティストにとっても、『一発作品を作って終わり』ではないし、お客さんもホテルにお金を払って作品を体験する。それによって、作品作りへの参加意識をかき立てられる」
それは、全く新しい旅行体験とアーティスト支援の仕組みだろう。
ホテルをオープンして現在で約二年。アートと一緒に眠るという珍しいコンセプトのおかげで、お客さんは世界中から集まってくる。なかには米国の起業家やアジアのクリエイター集団も現れた。
「全体的には欧米のお客さんが圧倒的に多いですね。アートホテルが面白い人を勝手に世界中から集めてくるんですよ。実はお客さんの方が断然面白かったり!」
川内 有緒