未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
119

東京都杉並区

東京のある街に巨大壁画が次々と出現してるらしい!? そんな噂を聞きつけて向かったのは、東京の高円寺。あのカオスな街に壁画って、なんだか面白そうな組み合わせ……とその仕掛け人に話を聞くべく向かったのは、街の片隅にあるちょっと変わったホテル。「街の予定調和を壊したい」とその人は語るのだが、その真意とは!?

文= 川内有緒
写真= 川内有緒
未知の細道 No.119 |10 August 2018
  • 名人
  • 伝説
  • 挑戦者
  • 穴場
東京都杉並区

最寄りのICから【C2】首都高速中央環状線「中野長者橋」を下車

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#1沼地に住む動物たち

アートディレクターの大黒健嗣(だいこくけんじ)さん

 東京に住んでいる人だけなのかもしれないけれど、「高円寺」と聞くと、あるイメージが浮かんでくる。ディープ、混沌、ライブハウス、古着屋、サブカル……。
「よく『沼地』って言われます。ハマっちゃうと出られない。30歳を超えたら出ないとマズイ、みたいに言われる街です。僕にとっての高円寺は動物園みたいですね。ライオンもいるしウサギもいるし、鳥もいる」
 長年この街に住むアートディレクターの大黒健嗣(だいこくけんじ)さんは、愛おしむような表情でそう語った。大黒さんは、高円寺ではなかなか知られた存在で、オルタナティブスペース・AMPcafeの運営をしたり、また銭湯「小杉湯」の隣のアパートで、アーティストインレジデンスの『アーティスト in 銭湯』をプロデュースしてきた。長髪、短パン、ヒゲ姿でこの街を日々歩きまわる彼の愛称は「あんちゃん」。
 ハマッちゃうと出られない動物園なんて、なんだか楽しそうですねえ。
「そうそう、若い人たちがやっている個人店も多いんだけど、だいたい利益度外視で、ただ自分が見せたいから何かを集めて売ってるとか、そんな感じ。だから、飲み歩きもするんだけど、お酒が好きだから飲みにいくというよりは、その店のボスに会いにいく」
 ともすれば、この街から出ることなく一日が完結することもあるという大黒さんにとって、街は巨大な遊び場であり、仕事場であり、ホームタウンでもある。
「じゃあ、高円寺にいると安らぐんですね?」と確認までに聞いてみると、「そりゃあ、かなり安らぎますねー」と大黒さんは満足げに答えた。
 そういう彼自身も、間違いなく「高円寺動物園」の仲間のひとりだろう。彼は、色々なものをこの街に生み出してきたわけだが、今回特に話を聞きたいのはふたつ。
 ひとつ目はホテルで、ふたつ目は数々の壁画である。
 まずは、ちょっと変わったホテルの話から始めたい。

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未知の細道 No.119

川内 有緒

日本大学芸術学部卒、ジョージタウン大学にて修士号を取得。
コンサルティング会社やシンクタンクに勤務し、中南米社会の研究にいそしむ。その合間に南米やアジアの少数民族や辺境の地への旅の記録を、雑誌や機内誌に発表。2004年からフランス・パリの国際機関に5年半勤務したあと、フリーランスに。現在は東京を拠点に、おもしろいモノや人を探して旅を続ける。書籍、コラムやルポを書くかたわら、イベントの企画やアートスペース「山小屋」も運営。著書に、パリで働く日本人の人生を追ったノンフィクション、『パリでメシを食う。』『バウルを探して〜地球の片隅に伝わる秘密の歌〜』(幻冬舎)がある。「空をゆく巨人」で第16回開高健ノンフィクション賞受賞。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。