未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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プロジェクトFUKUSHIMA! の次なる挑戦

「清山飯坂温泉芸術祭」ができるまで

文= 松本美枝子
写真= 松本美枝子
未知の細道 No.116 |25 JUNE 2018
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#7大風呂敷から生まれたもの

 さて一階の「ゲームコーナー」という一角には、20代の若いアーティストたちの作品が展示されている。
 そのひとり、半澤慶樹さんは、ちょっと前までは「アーティスト」というわけではなかった。6年前、服飾の専門学校に通っていた19歳の時から『福島大風呂敷』の縫い子のボランティアをしていた半澤さん。愛知県での芸術祭で『フェスティバルFUKUSHIMA!』が行われた時には、ミシン1台を抱えて、ただ大風呂敷を縫うためだけに、会場まで来てくれたこともあったのだ、とアサノさんはいう。
 半澤さんも「8月の蒸し暑い中、ひたすらパッチワークを縫い合わせていく作業は、洋服を作るのとは別次元のスケールの大きさがあり、一種のカタルシスを与えてくれた」と語っている。
 やがて半澤さんはファッション・デザイナーとして昨年『PERMINUTE』というブランドを立ち上げた。ショーに参加して、今ではその服が雑誌に採り上げられ、人気女優が舞台挨拶で着用することもある。今回は、半澤さんが得意とする布のボリュームやカッティングの面白さが感じられる作品を展示している。
まさに『福島大風呂敷』から生まれた若手アーティストと言えるだろう。

館内に展示されているのは、アーティストの作品だけではない。先ほど、大友さんの作品を上演していたスタッフ、渡部さんの展示室もあった。『プロジェクトFUKUSIMA!』や大友さんのラジオ番組にちなんだ、手作りのかるたや、紙相撲などを展示した、なかなかかわいらしい空間である。
 また同じ福島県の猪苗代町にあるアール・ブリュット(既存の美術や文化とは無縁の文脈によって制作された芸術作品のこと。「生」の芸術という意味。)の美術館「はじまりの美術館」の展示室もあった。

  • 渡部和彦さんの展示
  • 「はじまりの美術館」

 そんなさまざまなジャンルの展示を楽しんでいるうちに、時間はあっという間に過ぎていった。広い旅館の敷地に点在する展示作品を探しながら見ているうちに、すでに4時間以上も経っていたのであった。
 「清山」は休業中だから、電気や水道など、芸術祭を行うためにクリアしなければならない問題もたくさんあったのだという。しかし、そんなサバイバルのような空間だったからこそ、アーティストもボランティアも、その垣根を越えた、それぞれの持ち味が渾然一体となった空間が生まれたのではないだろうか。それはさまざまな色や模様の布を、みんなで縫いつないだ、あの「大風呂敷」の姿にも似ているのかもしれない。
 「清山飯坂温泉芸術祭」とは、旅館一軒のコンパクトな芸術祭という、私の最初の想像を良い意味でしっかりと裏切った、さまざまな楽しみと工夫が詰まった芸術祭だったのである。

 そして「清山」の客室には、いつの間にか夕日が差し込んでいた。

「埋蔵経」栗林隆


未知の細道 No.116

未知の細道のに出かけよう!

こんな旅プランはいかが?

飯坂温泉&「フェスティバルFUKUSHIMA!2018」を楽しむ旅プラン

予算の目安15000円〜

最寄りのICから【E4】東北自動車道「福島飯坂」を下車
1日目
福島市の街なか広場で行われる、野外音楽フェス「フェスティバルFUKUSHIMA! 2018」(15:00-20:00)を楽しもう。ライブを楽しむもよし、17時頃から始まる「盆踊り」に参加して一緒に踊るもよし!
お腹が空いたら「清山飯坂温泉芸術祭」にも参加していたカレー屋「笑夢」なども出店予定なので、ぜひ探して食べてみよう!
宿泊、食事は飯坂温泉街へどうぞ。
2日目
飯坂温泉街には地元の人も楽しむ9つの共同浴場があるので、日中に巡ってみよう。
夕方からは引き続き「フェスティバルFUKUSHIMA! 2018」の2日目へ!

※本プランは当サイトが運営するプランではありません。実際のお出かけの際には各訪問先にお問い合わせの上お出かけください。

松本美枝子

1974年茨城県生まれ。生と死、日常をテーマに写真と文章による作品を発表。
主な受賞に第15回「写真ひとつぼ展」入選、第6回「新風舎・平間至写真賞大賞」受賞。
主な展覧会に、2006年「クリテリオム68 松本美枝子」(水戸芸術館)、2009年「手で創る 森英恵と若いアーティストたち」(表参道ハナヱ・モリビル)、2010年「ヨコハマフォトフェスティバル」(横浜赤レンガ倉庫)、2013年「影像2013」(世田谷美術館市民ギャラリー)、2014年中房総国際芸術祭「いちはら×アートミックス」(千葉県)、「原点を、永遠に。」(東京都写真美術館)など。
最新刊に鳥取藝住祭2014公式写真集『船と船の間を歩く』(鳥取県)、その他主な書籍に写真詩集『生きる』(共著・谷川俊太郎、ナナロク社)、写真集『生あたたかい言葉で』(新風舎)がある。
パブリックコレクション:清里フォトアートミュージアム
作家ウェブサイト:www.miekomatsumoto.com

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。