さて一階の「ゲームコーナー」という一角には、20代の若いアーティストたちの作品が展示されている。
そのひとり、半澤慶樹さんは、ちょっと前までは「アーティスト」というわけではなかった。6年前、服飾の専門学校に通っていた19歳の時から『福島大風呂敷』の縫い子のボランティアをしていた半澤さん。愛知県での芸術祭で『フェスティバルFUKUSHIMA!』が行われた時には、ミシン1台を抱えて、ただ大風呂敷を縫うためだけに、会場まで来てくれたこともあったのだ、とアサノさんはいう。
半澤さんも「8月の蒸し暑い中、ひたすらパッチワークを縫い合わせていく作業は、洋服を作るのとは別次元のスケールの大きさがあり、一種のカタルシスを与えてくれた」と語っている。
やがて半澤さんはファッション・デザイナーとして昨年『PERMINUTE』というブランドを立ち上げた。ショーに参加して、今ではその服が雑誌に採り上げられ、人気女優が舞台挨拶で着用することもある。今回は、半澤さんが得意とする布のボリュームやカッティングの面白さが感じられる作品を展示している。
まさに『福島大風呂敷』から生まれた若手アーティストと言えるだろう。
館内に展示されているのは、アーティストの作品だけではない。先ほど、大友さんの作品を上演していたスタッフ、渡部さんの展示室もあった。『プロジェクトFUKUSIMA!』や大友さんのラジオ番組にちなんだ、手作りのかるたや、紙相撲などを展示した、なかなかかわいらしい空間である。
また同じ福島県の猪苗代町にあるアール・ブリュット(既存の美術や文化とは無縁の文脈によって制作された芸術作品のこと。「生」の芸術という意味。)の美術館「はじまりの美術館」の展示室もあった。
そんなさまざまなジャンルの展示を楽しんでいるうちに、時間はあっという間に過ぎていった。広い旅館の敷地に点在する展示作品を探しながら見ているうちに、すでに4時間以上も経っていたのであった。
「清山」は休業中だから、電気や水道など、芸術祭を行うためにクリアしなければならない問題もたくさんあったのだという。しかし、そんなサバイバルのような空間だったからこそ、アーティストもボランティアも、その垣根を越えた、それぞれの持ち味が渾然一体となった空間が生まれたのではないだろうか。それはさまざまな色や模様の布を、みんなで縫いつないだ、あの「大風呂敷」の姿にも似ているのかもしれない。
「清山飯坂温泉芸術祭」とは、旅館一軒のコンパクトな芸術祭という、私の最初の想像を良い意味でしっかりと裏切った、さまざまな楽しみと工夫が詰まった芸術祭だったのである。
そして「清山」の客室には、いつの間にか夕日が差し込んでいた。
未知の細道の旅に出かけよう!
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松本美枝子