黒い玉石が敷かれた広々とした玄関で、受付スタッフが出迎えてくれる。靴を下駄箱に入れて、スリッパに履き替える。広いロビーを見渡すと、お客さんで賑わうカフェや、芸術祭の資料や映像のブース、そして門の下にはためいていたものと同じ、あの大きなパッチワークが、壁や床など、そこかしこに敷き詰められている。
するとロビーにいた男性が声をかけてくれた。『清山飯坂温泉芸術祭』の総合ディレクター、山岸清之進さんである。姓と名前から、お気付きかもしれない。そう、この旅館「清山」は、山岸さんの実家なのだそうだ。旅館を継がなかった山岸さんは、普段は東京に住み、番組プロデューサーとして働いている。休日にはこうして東京と福島を往復しているのだという。
そして山岸さんは、さらにもう一つの顔がある。それは『プロジェクトFUKUSHIMA!』の代表だ。
では『プロジェクトFUKUSHIMA!』とはいったい何なのか?
それは東日本大震災にさかのぼる。2011年3月11の大地震と津波、そしてそのすぐ後に東京電力福島第一原子力発電所の事故が起こった。突然、福島に降りかかった、あまりにも厳しい現実の中で、山岸さんは東京に住む同郷のアーティストと連絡を取り合っていた。以前、テレビ番組で一緒に仕事をしていた福島市育ちの音楽家・大友良英さんである。
二人は原発事故を境に、故郷の福島が、いつの間にか「FUKUSHIMA」としてネガティブに全世界に発信されていくのを憂え、そして憤っていた。そんな中、山岸さんと同じように大友さんと連絡を取っていた、二本松市生まれのロック・ミュージシャン、遠藤ミチロウさんが「福島に1万人を集めて音楽フェスをやろう!」と言い出したのだった。
この混乱の中、果たしてそんなことができるのだろうか? しかし他にも福島ゆかりのアーティストや県内外の有志が集まり、大友良英さんと遠藤ミチロウさん、詩人の和合亮一さんを共同代表として、『プロジェクトFUKUSHIMA!』が立ち上がった。
そして半年後の8月に福島市で大規模な音楽フェス、『フェスティバルFUKUSHIMA!』を行うことを目指し、「震災でネガティブになったFUKUSHIMAを文化の力でポジティブに転換していく」ことが宣言されたのであった。
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松本美枝子