未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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プロジェクトFUKUSHIMA! の次なる挑戦

「清山飯坂温泉芸術祭」ができるまで

文= 松本美枝子
写真= 松本美枝子
未知の細道 No.116 |25 JUNE 2018
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#8フェスティバルFUKUSHIMA! 2018に向かって!

沼田順さん(右)と荒川淳さん(左)の演奏

 山岸さんやアサノさんに「帰る前に、これからバーで始まるライブも、ぜひ聴いていって!」と勧められた。「清山」には地下に、舞台とバーカウンターを備えた立派なバーまであるのだ。
 この日のライブは、沼田順さんと荒川淳さんのギターの競演! 薄暗い赤の照明の中で響く、研ぎ澄まされたギターの爆音は迫力があった。
 そう、やはり『プロジェクトFUKUSHIMA!』は、何と言っても音楽フェスからスタートした活動なのだ。この『清山飯坂温泉芸術祭』でも、作品展示の他に、大友さんや沼田さん、テニスコーツなど多彩なミュージシャンによるライブ、そしてアーティストたちのトークやパフォーマンスがたくさんプログラムされていた。

 そしてこの芸術祭が終わったら、また次の『フェスティバルFUKUSHIMA!2018』の季節がやってくる。今年は新しい取り組みもある。これまで1日限りだった祭を1日増やして、週末の8月11日(土)と12日(日)の二日間通しで行うことにしたのである。もちろん大友良英さんをはじめ、多くのミュージシャンが参加する。「今年もたくさんの人に来て欲しいですね」と山岸さん。

音楽と共にそのアートワークも人気がある「テニスコーツ」の展示部屋もあった。

 山岸さんとアサノさんに見送られ、私たちは「清山」を後にした。森山さんと「今度はフェスにも行ってみたい!」などと話しながら門の外へ出ると、目の前にはキッチンカーが止まっている。なんと消防車を改装して窯を積み、ピザを焼いているのだという!

 この「モバイルアースオーブン」も、参加アーティストだ。この作品を展開する安斎伸也さんは、福島市出身で、果樹園の4代目だ。震災を機に、小さな子供がいた安斎さん夫妻は札幌に移住した。今は札幌市内で「たべるとくらしの研究所」というカフェ&ギャラリーをオープンし、そこでの企画を通して震災以降の食と暮らしについてを考え続けている。そして度々福島へ帰ってきては『プロジェクトFUKUSHIMA!』に参加しているのだ。

 意図しない形で全世界に知られた「FUKUSHIMA」をあきらめないために、希望を持って福島の未来を考えるために、ここに祭りが必要なのだ、と山岸さんは語っていた。それは真実だと思う。だからこうして『フェスティバルFUKUSHIMA!』は、福島の、いや各地の芸術祭の夏の風物詩となりつつあり、そして今また福島発の新しい芸術祭を立ち上げることもできたのだから。

 新鮮な野菜や卵がのったピザをほおばっていると、山岸さんやアサノさん、他のスタッフやお客さんまで、ぞろぞろと外に出てきた。
 「あれ、まだいたのですか?」とみんなに笑われて、もう一度見送られながら、今度こそ「清山」を後にする。次に福島へ旅する時は『フェスティバルFUKUSHIMA!』のときだろうか。また近いうちに行ってみよう、「FUKUSHIMA」へ。


未知の細道 No.116

松本美枝子

1974年茨城県生まれ。生と死、日常をテーマに写真と文章による作品を発表。
主な受賞に第15回「写真ひとつぼ展」入選、第6回「新風舎・平間至写真賞大賞」受賞。
主な展覧会に、2006年「クリテリオム68 松本美枝子」(水戸芸術館)、2009年「手で創る 森英恵と若いアーティストたち」(表参道ハナヱ・モリビル)、2010年「ヨコハマフォトフェスティバル」(横浜赤レンガ倉庫)、2013年「影像2013」(世田谷美術館市民ギャラリー)、2014年中房総国際芸術祭「いちはら×アートミックス」(千葉県)、「原点を、永遠に。」(東京都写真美術館)など。
最新刊に鳥取藝住祭2014公式写真集『船と船の間を歩く』(鳥取県)、その他主な書籍に写真詩集『生きる』(共著・谷川俊太郎、ナナロク社)、写真集『生あたたかい言葉で』(新風舎)がある。
パブリックコレクション:清里フォトアートミュージアム
作家ウェブサイト:www.miekomatsumoto.com

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。