未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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プロジェクトFUKUSHIMA! の次なる挑戦

「清山飯坂温泉芸術祭」ができるまで

文= 松本美枝子
写真= 松本美枝子
未知の細道 No.116 |25 JUNE 2018
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#3「大風呂敷」を広げよう!

 2011年当時は放射線被害について、さまざまな見解が飛び交い、福島市にお客さんを呼んで音楽フェスティバルを行うことについて、共感と同時に「危険だ!」という批判も多くあったという。
 そこで会場の放射線量測定に協力してくれた、放射線衛生学の木村真三博士から「表面被曝を少しでも減らすという意味で、芝生の会場を大きなシートか布で覆ってはどうか?」というアドバイスがあった。表面被曝を減らすという意味だけでなく、福島へ来てくれるお客さんへのおもてなしの気持ちも込めて、見た目にも美しいものにしようと、建築家のアサノコウタさんや美術家の中崎透さんたちが中心となり、たくさんのボランティアとともに、全国の支援者から届いた布の山をつなぎ合わせ、巨大なパッチワークを作った。それは6000㎡の面積をも覆えるほどの大きさになった。
 これが今では『福島大風呂敷』と呼ばれているパッチワークの誕生だった。そしてこの大風呂敷の上で、初めての『フェスティバルFUKUSHIMA!』が行われ、県内外から1万3千人が訪れたのだった。

 それから毎年8月に『フェスティバルFUKUSHIMA!』が行われるようになった。3年前には代表が大友さんたちから、山岸さんへと引き継がれた。
 そして時間とともに深刻な放射線の表面被曝の心配がなくなっても、この『福島大風呂敷』がなくなることはなかった。時には旗になったり、祭りの櫓に飾られたりと、『フェスティバルFUKUSHIMA!』では今でもこの大風呂敷が使われているし、ボランティアの手によって新しいものも作られているのだという。
 朝くぐってきた門にはためいてた布や、旅館の中に飾られているものも、みな、この『福島大風呂敷』なのである。大風呂敷は『プロジェクトFUKUSHIMA!』を象徴するアイコンとなっていったのだ。

 さて年を重ね『フェスティバルFUKUSHIMA!』は、福島市の夏の恒例行事となっていった。3年目からは大友さん作曲のオリジナルの盆踊り音頭『ええじゃないか音頭』も生まれた。
 さらにこの頃から、予想外のことも起こり始めた。各地のお祭りや芸術祭に『フェスティバルFUKUSHIMA!』が呼ばれるようになっていったのである。そしてどこの町に呼ばれても、この大風呂敷はボランティアによって作られ、広げられ、人々はその上で『ええじゃないか音頭』を踊った。
 昨年参加した『札幌芸術祭2017』でのクロージングイベントでは、その大きさはなんと1万㎡にもなったという。

 福島の人だけではなく、日本に生きる私たちに分断をもたらした震災による原発事故、そしてそこから始まった『フェスティバルFUKUSHIMA!』。
「自分たちが掲げた『福島と未来を発信する』というテーマは、まさに大風呂敷を広げるようなことだったかもしれない。だけれど、その大風呂敷で包まれるのにふさわしいものを作ってやろうじゃないか、という思いを、いつもみんなで持ち続けているんです」と山岸さんは教えてくれた。

初めて盆踊りが始まった、『フェスティバルFUKUSHIMA!2013』


未知の細道 No.116

未知の細道のに出かけよう!

こんな旅プランはいかが?

飯坂温泉&「フェスティバルFUKUSHIMA!2018」を楽しむ旅プラン

予算の目安15000円〜

最寄りのICから【E4】東北自動車道「福島飯坂」を下車
1日目
福島市の街なか広場で行われる、野外音楽フェス「フェスティバルFUKUSHIMA! 2018」(15:00-20:00)を楽しもう。ライブを楽しむもよし、17時頃から始まる「盆踊り」に参加して一緒に踊るもよし!
お腹が空いたら「清山飯坂温泉芸術祭」にも参加していたカレー屋「笑夢」なども出店予定なので、ぜひ探して食べてみよう!
宿泊、食事は飯坂温泉街へどうぞ。
2日目
飯坂温泉街には地元の人も楽しむ9つの共同浴場があるので、日中に巡ってみよう。
夕方からは引き続き「フェスティバルFUKUSHIMA! 2018」の2日目へ!

※本プランは当サイトが運営するプランではありません。実際のお出かけの際には各訪問先にお問い合わせの上お出かけください。

松本美枝子

1974年茨城県生まれ。生と死、日常をテーマに写真と文章による作品を発表。
主な受賞に第15回「写真ひとつぼ展」入選、第6回「新風舎・平間至写真賞大賞」受賞。
主な展覧会に、2006年「クリテリオム68 松本美枝子」(水戸芸術館)、2009年「手で創る 森英恵と若いアーティストたち」(表参道ハナヱ・モリビル)、2010年「ヨコハマフォトフェスティバル」(横浜赤レンガ倉庫)、2013年「影像2013」(世田谷美術館市民ギャラリー)、2014年中房総国際芸術祭「いちはら×アートミックス」(千葉県)、「原点を、永遠に。」(東京都写真美術館)など。
最新刊に鳥取藝住祭2014公式写真集『船と船の間を歩く』(鳥取県)、その他主な書籍に写真詩集『生きる』(共著・谷川俊太郎、ナナロク社)、写真集『生あたたかい言葉で』(新風舎)がある。
パブリックコレクション:清里フォトアートミュージアム
作家ウェブサイト:www.miekomatsumoto.com

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。