箱田さんの宝物、はたおり機を見せてもらった。小さな部屋の半分以上を占める織り機は、小柄な箱田さんの身体に合わせた特注品。独立するときに、日下田先生のものと京都の知り合いのものの良いところを合わせて作ってもらったそうだ。全身を使う織りの作業は肩や腰を痛めがちだが、箱田さんは身体に合ったはたおり機のおかげか痛いところがないという。
木でできたはたおり機は、独立してからの長い月日を感じさせる渋い色合いで、ギーカタンという機を織る音も心地良い。このはたおり機とともに作品を作り続けて45年。飽きてしまったり、辞めたいと思ったことはないのか。
「一度もない。だって楽しいんだもの」
即答だった。かと言って、辛いことがないわけではない。仕事の内容は、染めのときには何リットルもの水を使って糸を何度も洗うなど、体力的にきついものも多いという。体調を崩して休まなければいけない時期もあった。
「同じ日下田先生の生徒だった人たちも、ずっと続けている人ってすごく少ないの。だから教えてくださいって来てくださる方もお断りしているんです。やっぱり色々な条件が揃わないとこれだけで生活していくのは難しいし、女性は家庭に入るとなかなか続けていかれないのね。私の場合は、夫が応援してくれたから夢中でやることができたんです」
新聞記者だったという旦那さんが外に出ているあいだに、箱田さんも織物に専念できた。「好きなら、やりなさい」と言ってくれた旦那さんに支えられたと箱田さんは言い、十数年前、旦那さんが他界してからも、作品を作り続けた。
「私、織物があってよかったって思います。他にやることがなかったら、きっとボーっとしちゃっていたわね。だから健康で、できるあいだはずっと織り続けたいの」
すべてひとりで、手作業で。気が遠くなるような工程を丁寧に説明してくれる箱田さんの話は、いくら聞いていても飽きなかった。ひとつひとつの作業に箱田さんのこだわりと、つくる喜びが見えたから。きれいな細い糸が出来上がったとき、生きている草木から思いもよらない素敵な色が染まったとき、それらが合わさった自分の思い以上の織物ができたとき。そのすべての瞬間が特別で嬉しいものだから、箱田さんは、理想の織物を追い求め続ける。
ウィルソン麻菜