未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
75

新潟県新発田市

世界一かわいいガスタンク!?  地元の人に長く愛されている「ニコタン」と、法のもとで公に人をブン殴れる!?  地元に根ざす新発田まつりの「ケンカ台輪」。その旅の先に見た、記憶に「眠る」風景とは?

文= 志賀章人
写真= 志賀章人
未知の細道 No.75 |25 September 2016
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新潟県

最寄りのICから日本海東北自動車道「聖籠新発田IC」を下車

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#1車窓からニコタンが見えると新発田に帰ってきた感じがする

ああ、帰ってきたな……

帰省の途中で、そう感じる風景がある。しばらく使っていなかった細胞が次々と目を覚まし、全身が呼応していくようなその風景を境目にして、懐かしさのグラデーションが次第に色濃くなっていく。

それにしても、どこからどこまでが地元なのだろう。小学生のころの行動範囲である実家から徒歩で行ける町内? 中学生になってからの自転車で行ける市内? 高校生になってからの電車移動を含めた県内? 大学から地元を離れてしまったが、その境界線はどこに引かれているのだろう。分からなくなることもあるが、ぼくは懐かしさのトリガーと言える、この風景より先を「地元」だと思うことにしている。

大阪府吹田市に実家があるぼくの場合、「太陽の塔」のある風景がそれである。吹田ICを降りて車から太陽の塔が見えると、「ああ、帰ってきたな」と思うのだ。ある人にとってそれは、電車の窓にうつる山並みかもしれないし、ローカルバスの中でおしゃべりをしている高校生の方言かもしれない。あるいは、自宅マンションのエレベーターにある年老いたボタンという人もいるかもしれない。

しかし、その風景が「ガスタンク」だという人がいる。ゴジラによく踏み潰されている、あの丸くて大きなガスタンクである。果たしてそれはどこなのか。

新潟県新発田市。「しんはった」ではない。「しばた」と読む。

新発田市には「新発田ガス」というガス会社があるのだが、そのガスタンクは他社と一線を画している。「ニコタン」というキャラクターが描かれているからだ。ガスタンクに絵を描くこと自体は珍しくないが、絵を描くことでガスタンクごとキャラクター化しているのは、新発田ガスだけではないだろうか。それも平成元年から、つまり、28年も前からの話である。

だからこそ、新発田市の住人は口を揃えるのだ。「車窓からニコタンが見えると新発田に帰ってきた感じがする」と。

またあるタクシー運転手はこう話す。「出張で来た人によく言われます。住所は分からないけど顔のあるガスタンクのあたりって。よほど印象に残るんでしょうね」

井戸端会議をしていたお母さん方はこう話す。「ガスタンクは危険なもの、怖いもの、というイメージがあるけど、顔があるだけでやわらぐよね」「ほっこりするよねぇ」

地元の高校生に至ってはこうである。「他の町でガスタンクを見たとき、思わず顔を探しちゃったよね」「ちっちゃい頃からガスタンクには顔があるもんだと思ってるから、顔がないことにビックリして、なんだこれは? と思っちゃった」

新発田市に到着したぼくはまず、「ニコタンって知ってる?」と地元の人に聞いてまわったわけだが、何よりレスがめちゃくちゃ速い。「もちろん知ってるよ!」と言わんばかりの切り返しに驚かされることとなった。

ガスタンク……ではなくニコタンは、新発田市内と隣町にわたって全7種(全5箇所)。そこで、ぼくは全ニコタンをコンプリートするべく「ニコタンGO」の旅をはじめたわけだが、なかなかどうして夢中になってしまった。拡張現実より現実離れした存在感はもちろん、それぞれのニコタンが別の表情を見せてくれるからである。

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未知の細道 No.75

ライター 志賀章人(しがあきひと)

「え?」が「お!」になるのがコピーです。
コピーライターとして、核を書くことで、あなたの言葉にならない想いを言葉にします。
京都→香川→大阪→横浜で育ち、大学時代にバックパッカーとしてユーラシア大陸を横断。その後、「TRAVERINGプロジェクト」を立ち上げ、「手ぶらでインド」「スゴイ!が日常!小笠原」など旅を通して見つけたモノゴトを発信中。次なる旅は、夫婦で世界一周!シェアハウス暦8年の経験から、子育てをシェアする未来の暮らしも模索中。
伝えたいことを、伝えたいひとに、伝えられるようになる。そのために、仕事のコピーと、私事の旅を、今日も言葉にし続ける。
「新聞広告クリエーティブコンテスト」「宣伝会議賞」「販促会議賞」など受賞・ファイナリスト多数。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
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