深夜2時、目覚ましがなった。オバケや妖怪が出やすいと言われる丑三つ時に、もう一度亀麿に会いに行こうと決めていたのだ。
眠たい目をこすって槐の間に向かう。するとそこには、中年のご夫婦がいた。テレビで見てからずっと来たかったそうで、「半年前に予約してやっと来れた」と嬉しそうに話す。
「昼間に亀麿神社で写真を撮ったけど、なにも写らなかったから悔しくて」
そう言いながら、ふたりは部屋のあちこちで写真を撮り始めた。最後にツーショットを頼まれたので、「何か写りますように!」と言いながら連写したら、ご夫婦のいい笑顔が撮れた。ふたりは満足そうに部屋へと戻っていった。
ちなみに私は、初対面の人とすぐに打ち解けられるタイプではないが、ここでは亀麿という共通の話題があるから、初対面の人とも盛り上がれる。一期一会を楽しめた夜だった。
さて、誰もいなくなったところで私は、友人たちが提案してくれた絵本の読み聞かせをすることにした。その間、なにか物音がした場合に備えて、レコーダーを回しておく。
購入した絵本は2冊。1冊目は『ちゅうちゅうたこかいな』。「コールアンドレスポンスができる絵本がいいよ。もしかしたら亀麿がレスポンスくれるかも」とアドバイスをもらい、決めた本だ。
たとえば、「ちゅうちゅうたこかい」と書かれているページをめくると、「な」の文字とタコのイラストが出てくる。私の「ちゅうちゅうたこかい」というコールに合わせて、亀麿に「な」とレスポンスしてもらいたい。
読み進めるとともに「な」のバリエーションが増えていき、「なっとう」になったり、「ナポリタン」になったりする構成だ。
私は、目の前に亀麿が座っていることを想像しながら読み聞かせを始めた。
「ちゅうちゅうたこかい…………な」
「ちゅうちゅうたこかい…………なべ」
「ちゅうちゅうたこかい…………なっとう」
「ちゅうちゅうたこかい…………なまはげ」
「ブホッッ」
?!
バッと顔を上げると、カメラマンを務めてくれた夫が「なまはげ」にウケている。「あんたかい」と思わずにはいられなかったが、反応をもらえるというのは、こんなに心強く嬉しいものなのか……。
2冊目は、「直球でいこう!」と友人が提案してくれた絵本だ。
「いるの いないの」
しばらく返答を待つが、なにも聞こえないので読み進める。さっきとは打って変わり、絵のタッチが怖いので、オカルト嫌いの夫の表情がかたい。
そして、最終ページ。ここでも亀麿のレスポンスを待って、数秒間、息を潜めた。
レコーダーになにが録れているのか、帰りの新幹線で確かめることにする。
未知の細道の旅に出かけよう!
大人たちが童心にかえる宿「緑風荘」を訪ねる