未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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座敷わらしの「亀麿」がもたらす一期一会 大人たちが童心にかえる宿「緑風荘」を訪ねる

文= 白石果林
写真= 白石果林
未知の細道 No.275 |25 February 2025
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#113代目が緑風荘を継いだワケ

大学を辞めた五日市さんは、ある日訪れた本屋で、雑誌『留学ジャーナル』を手に取った。前々から海外に憧れていたことから、「これだ!」と思ったそうだ。

そこから約1年、名古屋や横浜で期間工をやって200万円を貯め、アメリカのミシシッピ州に渡る。

「英語ができないまま行ったから、コーラを注文してもコーヒーが出てくるような状態だったけど、なんとかなりましたよ。信仰やしきたりに縛られない、海外の自由な空気が自分に合っていました。ミシシッピで過ごした1年は本当に楽しかった」

このまま海外で生活したい。そう考え始めた五日市さんの次の目標は、「ヘリコプターの操縦士の免許がとれる(アメリカの)短大にいくこと」だった。

なぜヘリコプターの操縦士に? と聞くと、シンプルで明快な答えが返ってきた。

「小さいころからの夢でね。空を飛びたかったんです」

館内の廊下。亀麿もここを歩いているのか……

短大に行くためにお金を貯めようと考えていたところに、実家から「戻ってきてほしい」と連絡が入る。23歳のときだった。

「母の具合がよくなかったんです。兄貴も一般の会社に就職していたし、自分しかいなかったので仕方なく帰りました。最初は、また海外に行きたいと考えていたけど、そのうちここで頑張ろうと思うようになりました」

良好とは言えない経営状況が続いたが、風向きが変わったのが約30年前。

ある人気番組で芸人が宿泊する様子が放映された際、映像にオーブが写りこんでいた。これが大きな反響を呼ぶ。予約が3年待ちになり、槐の間にはたくさんのお供え物が並ぶようになった。

しかし2009年、ボイラー室から出火したとみられる火災で、曲がり屋は全焼してしまう。幸い、宿泊客と従業員あわせて21名は全員無事で、座敷わらしを祀る亀麿神社だけが焼けずに残った。

その後、現在の施設を再建し、2016年に営業を再開。今も亀麿に会いにくる宿泊客は絶えない。五日市さんはこの火災について、「曲がり屋は古く冬は寒かった。再建したことでお客様に快適に過ごしてもらえるようになった。再生のきっかけになりました」と前向きに振り返った。

私は最後に、ゆうべ亀麿神社で電気が消えたことを話してみた。すると五日市さんは、人のいい笑顔を見せた。

「あぁ!22時にタイマーをかけているんですけど、時々ずれることがあるみたいですね」

「もし座敷わらしに会えなくても、自然に耳を傾けて、ゆっくり過ごしていただきたい」と五日市さん。

未知の細道のに出かけよう!

こんな旅プランはいかが?

大人たちが童心にかえる宿「緑風荘」を訪ねる

最寄りのICから【E4A】八戸自動車道「浄法寺IC」を下車
1日目
緑風荘にチェックインしたら、槐の間へ。亀麿にお供えをするもよし、宿泊客と亀麿の話題で盛り上がるもよし。夜はあたたかい露天風呂でリフレッシュ。
緑風荘
2日目
午前中に亀麿神社へ。金田一温泉の宿泊客は、緑風荘の受付でご朱印を買うこともできる(要前日予約)。チェックアウト後は、近隣のカフェでランチをして、周辺を散策しよう。「三浦哲郎ゆかりの家」や「分教場講堂」がある。
三浦哲郎ゆかりの家
分教場講堂

※本プランは当サイトが運営するプランではありません。実際のお出かけの際には各訪問先にお問い合わせの上お出かけください。

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「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
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