未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
275

座敷わらしの「亀麿」がもたらす一期一会 大人たちが童心にかえる宿「緑風荘」を訪ねる

文= 白石果林
写真= 白石果林
未知の細道 No.275 |25 February 2025
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#10水木しげるさんの言葉

3代目当主の五日市洋さん

身支度を済ませて、私は緑風荘の3代目当主である五日市洋さんに話を聞いた。

「今まで嫌って言うほど聞かれてるかもしれませんが……亀麿を見たことはありますか?」と切り出すと、「私はありませんよ」と穏やかな笑顔で答えてくれた。

「漫画家の水木しげるさんが来たときに、『私はみたことがない』と伝えたら、『座敷童子が家の人の前に現れたら、家を出ていってしまう前兆。見ない方がいいんだよ』と言われたんです。それで納得しました」

「でも私の祖父は創業前に、見たことがあるんです」と五日市さんは続ける。

「祖父が10代のころ、のちに槐の間になる客間で寝ていた時に現れたそうです。その後、戦争にいくはずが、健康な体にも関わらず何かの手違いで徴兵を免れた。祖父はいつも、座敷童子のおかげかもなぁと言っていました」

緑風荘は、五日市さんの祖父が1950年に創業した。そのころは、現在の建物ではなく築300年の南部曲がり屋。1967年に5人きょうだいの次男として誕生した五日市さんは、住居も兼ねていた当時の緑風荘に住んでいたそうだ。

築300年の南部曲がり屋の模型

「小さいころは槐の間のそばを通ると、ドキドキしていました」と当時を振り返る。

「小学生になると、掃除をしたり配膳をしたり宿を手伝うようになりました。でも当時は客足も少なく経営もギリギリでしたし、継ぎたくない、早く家を出たいと思っていましたよ」

大学進学を機に上京した五日市さん。学費は親に負担してもらったが、生活費などは自分で稼ぎながら通学した。しかし経済的な事情で、2年に進級できないまま大学を辞めることになる。

「なんとなく経営学部にしましたが、つまらなかったし辞めることに未練はありませんでした。結局、東京も好きになれなかった。特に満員電車がいやでした」

槐の間に置かれた「座敷わらし体験ノート」が35冊。なかにはお客さまの体験や感想がびっしり書かれていた

未知の細道のに出かけよう!

こんな旅プランはいかが?

大人たちが童心にかえる宿「緑風荘」を訪ねる

最寄りのICから【E4A】八戸自動車道「浄法寺IC」を下車
1日目
緑風荘にチェックインしたら、槐の間へ。亀麿にお供えをするもよし、宿泊客と亀麿の話題で盛り上がるもよし。夜はあたたかい露天風呂でリフレッシュ。
緑風荘
2日目
午前中に亀麿神社へ。金田一温泉の宿泊客は、緑風荘の受付でご朱印を買うこともできる(要前日予約)。チェックアウト後は、近隣のカフェでランチをして、周辺を散策しよう。「三浦哲郎ゆかりの家」や「分教場講堂」がある。
三浦哲郎ゆかりの家
分教場講堂

※本プランは当サイトが運営するプランではありません。実際のお出かけの際には各訪問先にお問い合わせの上お出かけください。

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「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
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様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
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