岩手県二戸市
「ここ取材に行ってみたら?」
編集長から送られてきたURLを開く。「座敷わらしのいる温泉宿」を訪ねた新聞記者の記事だった。
<(前略)撮影した2枚の写真には、ばかにされそうで見せないが、自分には説明できないものが写っている。>
この一文を読んだとき、きっと私はにやけていたに違いない。幼いころから好きだったオカルトにまつわる取材ができる日がきたのだ。私は舞い上がって「行きたいです!」と二つ返事をしたのだった。こうして2025年1月中旬、座敷わらしの亀麿(かめまろ)を訪ねて、岩手県二戸市にある温泉宿「緑風荘」に向かった。
最寄りのICから【E4A】八戸自動車道「浄法寺IC」を下車
最寄りのICから【E4A】八戸自動車道「浄法寺IC」を下車
昔から妖怪やオバケの類が好きだった。きっかけは覚えていない。3つ年上の兄が『トム・ソーヤーの冒険』を読んでいる横で、私は「お岩さん」やら「からから小僧」が出てくる本を読んでいた。幼稚園のときの記憶だと思う。
小学生になると漫画『地獄先生ぬ~べ~』にハマった。主人公の霊能力教師・鵺野鳴介(通称ぬ~べ~)が、子どもたちを守るために妖怪や悪霊と死闘を繰り広げるアクション色の強いストーリーだった。
なかでも私は、ぬ~べ~が経本(お経が書かれた折り本)を妖怪に巻きつけて身動きを封じるシーンに釘付けになった。私も妖怪を仕留めたい。その思いでいっぱいになった。
私は祖母宅の仏壇にあった経本を拝借することにした。祖母が「そんなものなにに使うん」と苦笑いしながら譲ってくれた経本を、ポケットに入れて毎日持ち歩くようになった。
縦長の経本はコンパクトとは言えない大きさで、いつもポケットからはみ出していたと思う。持ち歩き始めて数日経ったころだろうか。親に「みっともないからやめてくれ」と言われて、私は妖怪を仕留める機会を迎えないままに、経本を引き出しにしまったのだった。
25年の時を経て、妖怪を仕留める時がきた……とは思わなかったけれど、「座敷童子がいる宿」の取材提案を受けて私は舞い上がっていた。編集長から続けて送られてきたメッセージを見るまでは……。
「亀麿との遭遇をガチで目指してね!」
未知の細道の旅に出かけよう!
大人たちが童心にかえる宿「緑風荘」を訪ねる