英則さんは、げそ天にたどり着く前は、卵焼きやから揚げ、かき揚げなど、試行錯誤を続けていた。「とにかくまずはげそ天でチャレンジしてみよう!」と決めたのは、無理せずお店にあるものでできるからだ。
そのかわり宣伝に力を入れようと、印刷屋さんに頼んで目立つのぼり旗を作った。2017年2月からはFacebookでの発信をスタートし、日替わりのお惣菜や新鮮な魚介類、オススメの商品やげそ天について投稿を始めた。
「とにかくげそ天を多くの人に知ってもらおう!」と、英則さんは種まきを積極的に行った。お店の前でげそ天を揚げてみたり、いろいろなイベントに参加したり、山形市七日町のカフェで「げそ天食べ放題」を開催したり。
スモールスタートで始めたエンドーのげそ天は、2017年3月にYBC(山形放送)ラジオのグルメコーナーで紹介されたのを皮切りに、2018年10月には山形のフリーマガジン『gatta!』、YTS(山形テレビ)情報番組『ゴジダス』で取り上げられ、徐々に山形で認知されていった。
「エンドー」と、最初はプレーンだけだった「げそ天」に大きな革新をもたらしたのは、山形市内にあるデザイン事務所「杉の下意匠室」との出会いだ。
2017年、英則さんは包装紙のデザインを「杉の下意匠室」に頼んだのだが、デザイナーの鈴木さんとイラストレーターの小関さんから届いたのは、げそ天と「エンドー」をブランディングする企画書だった。
「げそ天の間口を広げる、げそ天を名物化させる、元気なご当地スーパー、エンドーをつくる」
企画書を見て「売る人の目線でなく、一般に買いに来る人の買いやすさや目新しさを考えてある」と感じた英則さんは、二人のアドバイスを採用することにした。
フライドポテトのようなパッケージ、げそ文字のフォント、店頭の顔はめパネルに登場するげそ男(おとこ)と筋子など。2018年6月に始まった「エンドー」のInstagramには、杉の下意匠室が考案したパッケージやポスター、キャラクター商品が並ぶ。つい見入ってしまう独特のデザインにフォロワー数も伸びる。
口コミが口コミを呼び、「エンドー」に来るお客さんはどんどん増えていった。メディアへの露出も多くなり、2019年6月には『読売新聞』に掲載、同年10月には『NHKあさイチ』に取り上げられた。2021年6月に『秘密のケンミンショー極』が山形県のソウルフード・げそ天特集を組み、「エンドー」が紹介されると、店舗の前には長い行列ができた。
お店のセンターに据えられる前、げそ天は1日4-5人前しか売れなかった。それが、げそ天を目玉にした1年目には1日に5-60人が来店し、現在では200人前ぐらいを揚げるという。
杉の下意匠室からのアドバイスはデザインだけではない。げそ天のフレーバーを増やしたり、物置のようだった店舗を改装するように英則さんに勧めたのも彼らだ。
英則さんのお話を聞いていて、「デザイナーさんがそこまで!?」と驚いた。愛着のあるお店の将来を一緒に考えるコミュニケーションとコラボレーションがあったからこそ、「山形といえばげそ天」「げそ天といえばエンドー」と言われるようになったのだ。
2009年に東京から戻ったときは地元のおばあちゃんが大半を占めていた客層は、現在は30代~60代と幅が広がった。すべての年代のお客様さんに「おいしい!」と言ってもらえる「げそ天」は、「エンドー」の売り上げの3割~4割を占めるそうだ。
「でも、売り上げ以上に貢献してくれていますよ」と語る英則さん。
2023年度の グッドデザイン賞で、「エンドー」の「げそ天」はなんと「グッドデザイン金賞(経済産業大臣賞)」、「グッドデザイン・ベスト100」、「私の選んだ一品(審査員が選んだお気に入り)」の3冠を達成。「エンドー」と「杉の下意匠室」の二人三脚がもたらした吉報にお店は湧いた。