げそ天は「エンドー」の象徴的な商品ながら、お店にくるお客さんの目当てはげそ天だけじゃない。
7年間、試行錯誤しながら種まきをしていた時期、英則さんは、家が離れていて週に1回しか来店できなかったおばあちゃんを週に5回迎えに行っていたことがあるという。自宅まで迎えに行って「エンドー」でお茶飲みをしてもらう。お茶飲みをしていると何かしら買ってくれる。それでまた送っていく。
「御用聞きですよね、特に変わったことをしている意識はありませんでした」
2018年11月のInstagramには、こんな投稿があった。
「大根おろして、柿むいて、梨むいて、迎えに来て、送って行って。お客様のご要望に出来る限り応えています。 電気毛布買ってきて、電池買ってきて、昔屋根裏にネズミの殺虫剤も撒いたこともありました(もちろん買い物してくださったついでですが)。ドライブにも行ったこともありましたね。あっ、ピザとかラーメン、そばもつくってました。そうやってお客様との絆や信頼を積み上げてきて今のお店があります(金額的に無理なものは除いてですが) 。自分の幅も広がりますしね、ですのでこれからもよろしくお願いします$D83D$DE0A 御用聞きエンドーでした(^^)」
「エンドー」の商品やサービスは、いつもお客さまにベクトルが向いている。
お店の上顧客であるおばあちゃんたちは、「ひな祭り」「花は見ないで、じいちゃんの打った蕎麦を食う女子会R65」「R65女子会、旬の秋刀魚と芋煮を食べよう」「over80女子、芋煮会 inエンドー」など、季節に合わせて「エンドー」で行われるイベントを楽しみにしている。
「エンドーで夜も飲めたらいいな」と思っていたら、すでに毎月最終土曜に夜のスーパーで呑めるイベント「立呑みエンドー」が2019年に誕生していた(コロナ禍中は休止、2022年に復活)。
コロナ禍で店内飲食ができなくなった2020年4月には、「家から出られない、出たくない」お客さんに向けて、杉の下意匠室さんのデザインで宅配用のフリーカタログを作成。「宅配エンドー」サービスを即座にスタートさせた。
立呑みエンドーの中止を嘆いていた左党のために生まれたのは、「宅呑みエンドー」という新商品。家で一人でもチビチビ楽しめるお酒とおつまみの数量限定セットで、現在も販売と同時に売り切れる人気商品になっている。
リピーターのお客さんがマンネリ化しないように、看板商品のげそ天のメニューも定期的に変えている。2022年冬には、杉の下意匠室さんのげそ天キャラクターデザインを使った「げそ天入替戦60日1本勝負!!」を行って、ファンの間で大いに盛り上がっていたようだ。プレーンを除外しての順位は一位が塩レモン、二位がワサビ、三位がカレー、11種類には入れなかったのは、焼きもろこし、ピリ辛、タコス、カルボナーラという結果だった。
スーパーであり、食堂であるだけでなく、地域のイベントスペースの役割も担ってきている「エンドー」。次々と企画を繰り出す英則さんはさぞマーケティングを勉強されたのだろうと思ったが、意外や意外、マーケティングの本を読んだことはあるものの、あまり身に入らなかったそうだ。
企画が生まれる源泉はなにかという問いへの答えに、「エンドー」が愛される理由がすべてが詰まっていた。
「やっぱりここで育った環境ですよ。スーパーに生まれて、ちょっとだけ人と接する機会が多くて、どうしたら喜ばれるかを常に考えてきました。ここって常にお客さんのリアクションが見れるじゃないですか。ダイレクトにお客さんから反応が返ってくるので、楽しいし、やりがいがあるんですよ」
「種まきは長かったですけどその分成長したのかな」という英則さんに、これからお店をどうしたいか聞いてみたら、「全然わかりません」と笑顔が返ってきた。
「いろいろな流れがあるので、お客さんを見てやりながら考えます。そこは、おばあちゃんを迎えに行っていたときと変わりません。月並みになっちゃいますが、お客さんが喜ぶ顔が見たい、それが正直なところです」