未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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まちの外国人観光客数が50倍に!? 日英ファミリーが立ち上げた海辺の宿

文= 松本美枝子
写真= 松本美枝子
未知の細道 No.263 |26 August 2024
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#6子どもたちのがんばり

大切に育てられているニワトリたち

「エルム・オン・ザ・ビーチ」の朝は、ニワトリの鳴き声ではじまる。朝一番にクリスさんといっしょに、ニワトリに餌をあげるのは蕾羅くんの仕事だ。今日の餌はなんと、メロン農家である友達からもらったという大量のメロン。たくさんのメロンが入った大きなボールを抱えて、家と鶏小屋を何往復もする蕾羅くん。あたりには甘い香りが漂い、ニワトリにしては、なんとも豪華すぎる朝ごはんである。
これほどまでに手塩にかけて育てているからだろうか、この鶏たちは毎朝10個ほどのおいしい卵を産んでくれる。
愛梨杏ちゃんが「ほら、見て!」と鶏小屋にある小さな扉を開けてくれた。中にはきれいな卵が並んでいる。うみたての卵を触ると、ほんのりと温かい。

この卵はなんと、宿泊客がチェックインしたときにプレゼントされる。お客さんたちはキッチンで、この卵を使って思い思いにごはんを作れるというわけだ。また事前に予約すれば、この卵を使ったクリスさんお手製のイングリッシュブレックファーストも食べられる。このおいしい卵は、宿の目玉サービスの一つなのだ。

11時に前日宿泊したお客さんがチェックアウトすれば、今度は夕方に迎えるお客さんのための掃除が始まる。「パパ、もう掃除にいってくるよ!」と率先して手伝うのは、夏休み中のライラくんだ。
それがひと段落すると、クリスさんと蕾羅くんはいっしょに畑仕事をしたり、改修中の建物で作業をしたり。毎日することは山ほどあるのだ。

クリスさんと蕾羅くんとで朝の収穫作業

蕾羅くんに「北茨城にやってきてどう?」と聞いてみた。
「友達が一人もいない中学校に入学するのは寂しかったし、なにより暑いバンコクから、北茨城へ引っ越してきて、温度差がすごくて、寒かったです」と答えてくれた。
ちなみに北茨城は、夏は「関東一涼しいまち」として、最近注目されはじめているのだが、当然冬はそれなりに寒い!

「東京ではごくふつうにいたハーフの生徒も、入学した中学校には一人もいなくて、馴染むのに少し時間がかかった。家庭内ではふだんみんな日本語を使っていることもあって、英語で100点をとれるように蕾羅は頑張って勉強して、自分でしゃべれるようになったんですよ」と麻未さんが隣で、こう付け足した。

小学一年生の愛梨杏ちゃんもいっしょにお手伝い!

麻未さんは宿と子育て、家事をこなしながら、子どもたちの挑戦もサポートしている。それは次男の瑠知琉くんと愛梨杏ちゃんのモデル業だ。今日はこれから撮影があり、電車で東京に向かうという。愛梨杏ちゃんは撮影が大好きなのだ。

ふとクリスさんと麻未さんの若き頃のステキな写真を思い出す。まだちいさな子どもたちだけど、両親と同じことに挑戦したくなる気持ちが芽生えているのだろうな、と思った。

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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
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