日本で英語を活かした事業を始めて10年ほど経った頃。クリスさんはタイのバンコクに魅力を感じて、日本とバンコクを行き来しながらバンコクでもホステルを手がけるようになった。ある時、バンコクから帰ってきて「ビルを借りてきたよ!」といきなり告げたクリスさん。家賃は月10万ほど、なかなかの出費である。「驚きましたよ。相談の電話の一本もなかったんですよ」と、当時を思い出して苦笑いする麻未さんだ。
クリスさんがDIYを手掛けたホステルは、スタッフも抱えて、順調に回っていた。しかし2020年春、あの新型コロナウィルスが世界を覆い尽くし、一家の生活も激変した。
ちょうど子どもたちの学校の休みを利用して、家族でバンコクに短期滞在していたときのこと。容赦なく襲ってきたコロナウィルスによってロックダウンへと突入、日本に戻る飛行機も出なくなってしまった。さらにその後は海外から外国人が日本に入国することが難しくなり、特にクリスさんの帰国が難しくなった。一家の大黒柱が日本に戻れないなら、麻未さんと子どもたちだけで日本に戻っても仕方がないだろう、ということで、一家は一年間バンコクで暮らすことになったのだった。
やがて世界は少しずつ落ち着きを取り戻していったが、一方クリスさんはコロナで一変したこの世界で、どうやって暮らしていくのがいいのかを考えていた。そして「もっとのびのび暮らせる田舎に引っ越してみたい」という気持ちが強くなっていったという。
そう、自分が育ったヨークシャーのように、自然が豊かなところで子どもたちを育てたい、麻未さんと暮らしたい。都会では飼えなかった大好きな大型犬も育ててみたい。そうして、バンコクの事業も東京の事業も整理して、日本へと戻ってきたのだった。バンコクで出会ったかわいらしい子犬、「ゴースト」もいっしょだった。