「エルム・オン・ザ・ビーチ」には、無料で泊まれる小さな4人部屋ドミトリーもある。こちらはボランティア向けの海外サイトで発信してる。 「1日5時間、DIYを手伝ってもらうかわりに、ランチつきで無料に宿泊できるようにしたんです」と麻未さん。それによって、海外からバックパッカーがボランティアスタッフとして長期滞在するようにもなっていった。
実は先に購入した2軒の間に立っていた家が空き家になり、クリスさんは先日そこも購入して、二棟目の宿作りをスタートさせている。一軒目を運営しながら新たなDIYもしなければいけないので、ボランティアが手伝ってくれるのは一家にとって、とても助かる。旅を続けたいバックパッカーたちも、海でサーフィンしたり、サイクリングをしながら、のんびりと日本の田舎暮らしを味わえるわけだ。
その口コミも広がり、宿泊客とボランティアと合わせて、1年で400人以上の外国人がここへ泊まりに来るようになっていたのである。
ボランティアのひとり、ピーターさんは26歳。これまで、コンクリートの解体など、クリスさんの屋外での作業を手伝ったという。「アウトドアが好き!」というピータさん。オフの時は海はもちろんのこと、一家と一緒にサッカー観戦や、登山などを楽しんだ。「ピーターはここでの滞在をとても喜んでくれたようだし、子供たちともたくさん遊んでくれて、とてもすてきなボランティアさんですね」と麻未さん。
その噂を聞きつけて、去年の秋には在京テレビ局のニュース番組の取材が入った。テレビ局の調査によると、2023年の北茨城市は前年比で50倍以上も外国人観光客が増えたというデータがあるそうだ。これは全国でもなんと第三位という数字だ! つまりその前年までは北茨城に来る観光客は、たった8人ほどだったということになる。テレビ局がウェブのアクセスを調べた結果、海外からエルム・オン・ザ・ビーチへの予約が集中しており、この数字はこの宿が生み出したものなのではないか、と取材が入ったのだった。このデータは、クリスさんたちはもちろん、まちの人々も全く知らなかった驚きの事実だった。
そしてエルム・オン・ザ・ビーチは、夕方の全国ニュースとして放送され、今度はそれを見た日本国内からの宿泊客が急激に増えた。すっかり大きくなったゴーストや、北茨城にきてから新たに家族に加わったもう一匹の愛犬マックスもテレビに登場し、二匹に会いたい! という人たちもいるそうだ。
そしてそんなクリスさんたち一家に、まちの人たちも「頑張っているね!」と声をかけてくれることも増えたのだという。
「ご近所さんたちは、最初からとてもよくしてもらっています」と麻未さん。さらに自宅の一室で、クリスさんが子ども向けの英会話教室も始めており、地域の同世代親子たちとの交流も増えている。