未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
262

秋田県山本郡

秋田料理店のメニューにある「じゅんさい」。触感はヌルヌル、食べると「チュルンッ」とするこの水草、食べたことがないという人も多いだろう。日本屈指の生産地は、秋田県三種町。この町で開催された「第11回世界じゅんさい摘み採り選手権大会」に参戦した。

文= 川内イオ
写真= 川内イオ
未知の細道 No.262 |13 August 2024
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秋田県山本郡

最寄りのICから【E7】秋田自動車道「琴丘森岳IC」を下車

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#1人生で一度ぐらい世界の頂点を目指そう

参加者が乗り込む箱舟。

畳一畳ほどの小さな箱舟に乗った僕は、手にした棒で沼に漕ぎ出した。箱舟は簡素な作りだけど、思いのほか安定している。沼の表面を覆うように、楕円形をした緑の葉っぱが浮いている。目を凝らすと、その水草の茎は沼の底まで長く伸びている。僕が狙うのは、その茎から伸びる新芽「じゅんさい」だ。

新芽(じゅんさい)が成長すると、大きな葉になる。

「じゅんさい」は水のなかで育つから、箱舟の上から身を乗り出して、のぞき込むしかない。あった! 僕は手を突っ込み、人差し指と中指でじゅんさいを挟み込み、細い茎に親指の爪を立てた。それが、つい数分前にじゅんさい摘みのプロフェッショナルの女性から教わった方法だ。

親指の爪を立てて、茎から摘み採る。

でも……なかなか摘み採れない。じゅんさいはゼリー状のヌルッヌルッとした寒天質に覆われていて、指先でツルツル滑るのだ。むうっ! まったく必要のない気合いの声を発して、最初のひとつを採った。周囲を見渡すと、39艘の箱舟のうえで、全員が黙々と水中のじゅんさいに指を伸ばしている。静かなる闘い…。

僕が摘み採ったじゅんさい。

2024年6月30日、僕は秋田県三種町で開催された「第11回世界じゅんさい摘み採り選手権大会」のソロの部に出場していた。ソロの部20人、ペアの部20組、計60人が、40艘の箱舟に乗り、1時間の制限時間内に採れた量、もしくは「摘み採りの美しさ」(美彩賞)を競う。

河童は三種町山本地域出身のキャラクター、じゅんくんとさいちゃん。

特に、じゅんさいに思い入れがあるわけじゃない。秋田出身の友人と一度、秋田料理屋に行ったときに初めて食べて、なんともいえない「チュルンッ」とした食感にときめいたことは覚えている。でもそれ以来、口にすることはなかった。

じゃあなぜ? と聞かれれば、ネットサーフィンをしているときに偶然大会の存在を知り、「世界選手権」という名称に惹かれたのだ。優勝したら、世界チャンピオン! 恐らく、じゅんさいの摘み採りを仕事にしているような真のプロフェッショナルは出場しないだろう。となれば、参加者のレベルはそれほど高くないはず。ということは、僕にも勝機がある! 人生で一度ぐらい世界の頂点を目指そう! と妄想が爆発し、完全なる前のめりで応募メールを送った。当選の通知が来てからは、友人たちに「世界王者になる!」と豪語していた。

集合場所からバスでじゅんさい田に移動する。(撮影:サオリス・ユーフラテス)

でも、開始数分で自分の浅はかさを悟った。水面の葉っぱの陰に隠れたじゅんさいを探し出すのも、見つけたじゅんさいを摘み採るのも、まったく簡単じゃない。過去の大会ではソロの部で1位になった人が2.5キロも収穫したと報じられていたけど、いったいどうやって!? というのが、ずぶの素人の感想だ。

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