1時間後、大会終了。各自が手持ちの棒で舟を操作し、スタート地点に戻る。参加者はじゅんさいを入れたバケツを持ち、計量する。結局、僕のバケツは半分にも満たなかった。ほかの人はどんな感じかな? と思って後ろを見ると、子ども連れのお母さんがバケツをふたつ持っている。とんでもない量だ! 思わず、話しかけた。
「すごい量ですね! (じゅんさい摘みを)やったことあったんですか?」
「何度か」
「今日はどちらから?」
「秋田市から来ました」
「コツはありますか?」
「まず、爪を伸ばして。上から見て、葉っぱをかき分けて。葉っぱを寄せないと下にあるのかわからないので」
「大会は初めて?」
「一昨年、初めて出ました。その時に優勝したんです」
「え、初出場で優勝! これはもしかしたら、二度目の優勝かもしれませんね」
「うふふ」
すべての計量が済むと、結果発表。僕は、この女性の実力に驚嘆することになる。
結果発表の場では、参加者のなかから最年少(5歳!)、最年長(岩手から参加の70代!)、遠方からの出場(佐賀、宮崎、大阪!)などが発表された。ふたりの外国人は、三種町のALT(外国語指導助手)でアメリカ出身とのこと。改めて、5歳から70代までが同じ舞台で競う世界選手権は稀有だと思う。選手宣誓をした兄弟には、大会に協賛するドレッシングメーカーから特別賞が贈られた。
最初は、美彩賞の発表で3人が壇上へ。続いて、僕も参加したソロの部。「3位ぐらいならワンチャンあるんじゃね?」と思っていた僕の甘すぎる考えは、木端微塵に打ち砕かれた。
3位の女性、1640グラム。
2位の女性、1722グラム。
優勝者は、僕が話を聞いた女性、二木南さんだった。
その記録を聞いて、のけぞった。2034グラム! 1時間で2キロを超えるじゅんさいを摘み採っていたのだ! それがどれだけすごいかというと、ペアの部の3位、2位の記録を上回り、優勝者の2251グラムとほぼ同量。ふたりで採るのと変わらぬスピード感と指先の感覚は、想像もつかない。2回出場して2度優勝。二木さんはもはやレジェンドと言っていいだろう。
ちなみに……。僕の記録は440グラムでソロの部20人中15位。てっぺんというより、底辺に近い順位だった。世界の頂点は果てしなく遠い。でも、満足度はとてつもなく高かった。箱舟に乗り、無我夢中でじゅんさいを摘み採る1時間は、思いのほか楽しい。