三種町はどうしてこんなにユニークな世界選手権を開催しようと思い立ったのだろう? 大会後、三種町の町長、田川政幸さんに話を聞いて、納得した。
三種町はじゅんさいの日本一の産地として知られ、一時期は国内シェアの約9割を占めていたそう(2010年地域特産野菜調査参照)。1991年頃には、年間約1260トンものじゅんさいを生産していたという。
そもそも、三種町でじゅんさいの栽培が盛んになった背景には、昭和40年代から始まった田んぼを減らす減反政策がある。旧山本町(現在の三種町)」では昔から、町内にある天然の沼でじゅんさいを採って生活の糧にしていた。減反政策が始まると、地元住民が知恵を絞り、田んぼを活用して水深50~60センチの人口の沼を作り、そこでじゅんさいの栽培を始めたそうだ。
「田植えがだいたい5月の半ばから末ぐらいで終わります。じゅんさいの収穫は6月から8月なので、稲の収穫までの時期に農家の収入源になっていました。私の家も農家で、祖母がじゅんさいの収穫に出ていました」
田植えと稲刈りの間に得られる貴重な副収入となったじゅんさい栽培は三種町で一気に広まり、日本一の規模にまで成長した。しかし、人口減少、農家の高齢化などが重なって、じゅんさい農家が徐々に減少。2023年の収穫量は210トンで、最盛期の6分の1程度になってしまった。
この状況に危機感を抱いた町役場と三種町商工会、秋田やまもと農業協同組合、秋田県、じゅんさい加工業者、じゅんさい生産者や地元銀行などが組んで、2011年に「三種町森岳じゅんさいの里活性化協議会」を設立。「まずは観光部門でじゅんさいを盛り上げよう」ということになり、2014年に初めて世界じゅんさい摘み採り選手権大会を開催したそう。
「初回からソロ20名、ペア20組の計60人でスタートしました。最初は先着順でしたが、その60名もなかなか集まらなかったんです。それがだんだんと口コミで大会の存在が広まって、2019年ごろには募集をかけるとすぐに埋まるようになったので、抽選に変えました」
先述したように、今ではソロの部の倍率は2倍、ペアの部は3倍を超える。遠方からの参加者も増え、人気のイベントになった。
三種町では、収穫の時期にじゅんさいの摘み採り体験も行っていて、世界選手権や体験を通して、じゅんさいのおいしさを知ってもらうだけでなく、じゅんさい農家の後継者を増やしたいという思いがあるという。いきなり仕事としてじゅんさいの摘み採りをするのはハードルが高い。間口を広げるという意味で、世界選手権はとてもいいアイデアだ。
最後に、町長にじゅんさいのお勧めの食べ方を尋ねたら、返ってきた答えは「じゅんさい鍋」。
「このエリアでは、今の時期になるときりたんぽ鍋に、じゅんさいをたっぷり入れます。おもてなしの料理ですね。鶏出汁のスープに、じゅんさいが合うんですよ!」
ああ! きりたんぽ鍋にじゅんさい! 三種町の特産品と郷土料理の魅惑のコラボレーション! 絶対に、間違いなく、150%おいしいやつ……。いつかおもてなしされたい!
気づけば、お昼時。僕は440グラムのじゅんさいを手に、腹を鳴らしながら帰路についた。それまで一度しか食べたことがなかったじゅんさいが、とんでもなく身近になった1日だった。