一冊ずつ選んだ理由を教えてくれると、どれも「今の私に必要」という気がして読書意欲を刺激される。特に子育てフェーズに入ってからは、なかなか本を読めないことがコンプレックスの私にとっては、この気持ちをもたらしてもらえるだけでも、自己肯定感があがった気がした(後日談、現在1冊読破で2冊目を読み中。私にしてはいいペースです)。
ところで、本を選んでいるときの酒井さんは「むふふ」とでも声が漏れてきそうな幸せな顔をしていて、見惚れてしまった。「楽しいんですねぇ」と話しかけると、「はい!すごく」と満面の笑み。その理由をこんなふうに話してくれた。
「私のなかにある本のラインナップから選ぶので、私の好みとお客様の好みの中間を探る感じになるんです。そうやって選んだ本について、『これ、絶対に好き』と言ってもらえることもあるし、大体の方が喜んでくれる。パーソナルブックセレクトは、その人のことを知って、新しい出会いを提案する仕事。普段の選書より深い感じがして、思った以上に私にとっても楽しいです」
力を込めて言われた「出会い」という言葉を噛み締める。村に1軒の小さな本屋の意義は、とても大きいのではないかと気づいたから。
「本って、『人』のことが書かれているものが多いですよね。なんていうか、ちょっと極端にいえば、本との出会いも人との出会いとあまり変わらないんじゃないかと思っています」
そう言われて、首がもげるほどうんうんと何度もうなずいてしまった。私の住む街にも、文具店と合体した本屋が一軒あるだけ。地方にこだわりの本屋がない問題を痛感する者として、人口が少ない場所にこそ本屋が必要な理由を得た気がしたからだ。
本屋があれば、たくさんの人に出会える。それは道志村で育つ子どもたちにとっても素晴らしい希望のように思える。聞けば、酒井さんもやはり「もっと地元の子どもたちに来てほしい」という大事な目標があるそうだ。
余談だが、子どもたちにはパーソナルブックセレクトは必要ないらしい。それは、直感で自分が読みたい本がわかるからだそう。それは酒井さんが試してみて知っていったことだそうが、なかなかおもしろい事実ではないだろうか。自分自身のことは、大人になるにつれてわからなくなっていくのかもしれない。