それから約20年、馬を愛おしく思う気持ちは、波立つこともなく熱烈に持続中だという。この間、神さんは、全日本ジュニア障害競技で優勝、日韓馬術大会の日本代表を務めるなど、競技者としても一流を極めた。大学卒業後は、ドイツに留学して現地の厩舎で働くなどの経験も積んできた。
ドイツから日本に戻ってからは、フリーランスの乗馬クラブのインストラクターを生業にしていた。全国的に人手不足な業界でもあり、食うには困らない状況だったという。でも、10年先もこの仕事を続けるのかと自分に問うと、しっくりこない。馬と一緒に起業する道を模索しているときに、南相馬市で「起業型地域おこし協力隊」の募集があることを知った。
「南相馬市といえば、野馬追の手伝いには大学生の頃に来たことがあって。馬で起業するならここだと思えたけれど、締切直前。1日で初めての事業計画書をつくって提出し、採用してもらえることになりました」(神さん)
そして2019年12月に移住。2020年10月に一般社団法人「Horse Value」を設立するに至った。今は私が体験した海や街中を散歩する観光事業のほか、心理学と馬に触れ合うことを融合させた企業の研修、15回のレッスンで馬と走れるようになるプログラムを柱に据えている。
「南相馬で、馬は神聖なもの。だから最初は『商売に使うなんて』と反発されることもありました。でも、少しずつ地域の人と馴染んでいって、自分も野馬追に参加して騎馬会の人たちとも知り合って関係性もできてきました。ずっと間借りしていた松浦ライディングセンターの杉浦さんたちにも、とてもよくしてもらってきました。だから名残惜しくもあるんですが、今は新しい拠点づくりの佳境で、今日も馬場の囲いをこれからつくりにいくところです」(神さん)