ちょうど野馬追が近づいていた時期なこともあって、私たちが訪ねる直前には、南相馬市長の乗馬レッスンをしていたところだそう。余談だが、南相馬市長は必ず馬に乗れなくてはいけないらしい。さすが馬のまちだ。
でも、「馬の社会的価値を高める」という目標を掲げて起業した神さんの考える「馬のまち」のポテンシャルは、まだまだこんなものじゃない。
「今、野馬追に出ているのは、南相馬市の人口の100人にひとりくらい。せめて日常的に馬に触れ合っている人が人口の半分くらいの割合になったらいいですね」と、よく通る声で揺るぎなく話す。
神さんの出身は東京都で、南相馬市に移住を決めたのは、馬にまつわる仕事をするチャンスがそこにあったから。ホースバリューの仕事も唯一無二だけれど、神さんがここに辿り着くまでの道のりも、聞けばなかなかユニークだ。
幼い頃から乗馬一筋と思いきや、最初に触れたスポーツは相撲。大の相撲ファンの祖父に誘われるままやっていたが、次第に体格差がものをいうようになって勝てなくなってきて、「次は服を着るスポーツをしたい」と思っていたときに出会ったのが、乗馬だった。
「乗馬体験のポスターを見て、完全に格好から入ったかたちでした。そして、やってみたら自分には乗馬のセンスがあると思えて、すごく楽しかった。自己肯定感が上がっていく感じもあったんですよ。それに、馬が自分のためにがんばってくれる。乗り終わったら手入れしていると、かわいいなあって」(神さん)