未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
257

使われていない土地を牧場に活用して地域のコミュニティに! 森で暮らす牛たちと描く「酪農」の豊かな未来

文= 川内イオ
写真= 川内イオ
未知の細道 No.257 |27 May 2024
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#8放牧再開まで諦めなかった理由

牧場併設のカフェ。牛乳、ヨーグルト、チーズ、バターなども販売している。

ひとりではどうにもならないと閉めたままだった牧場併設のカフェを再オープンすることができたのも、周囲の助けがあったから。森林ノ牧場では2009年から、障がい者雇用を促進するNTTデータの子会社「NTTデータだいち」と組んで、5名の障がい者を雇用していた。その「だいち」の所長が、「山ちゃん、この店開けよう! 僕が店に入るから」と背中を押してくれたのだ。

牧場の隣りにある高齢者向け住宅の住人にその話をすると、「私たちもお店に入るわよ!」と言ってくれた。迎えた8月7日、だいちの所長やおばあさんたちが店頭に立ち、カフェの再開にこぎ着けた。

「震災前と比べて取り引き先が半分ぐらいになって、1年目は赤字でした。でも、本当に良くしてくれるお客さんや知り合いのおかげで、首の皮一枚つながりました」

商品の製造や営業に走り回りながらも、山川さんは放牧の再開を諦めていなかった。ひとりで環境省や東電と何度も、粘り強く交渉を重ね、2012年から2年かけて牧場の除染を実施。先の見えない、気の遠くなるようなやり取りを経て、2014年、預け先から牛5頭を引き取って、ついに放牧を再開させた。

「震災から何度も心が折れそうになる瞬間があったんじゃないですか?」と尋ねると、山川さんは「ほんとですよね」と苦笑した。

「学生時代にネパールを旅した時、子どもたちが英語をペラペラ話して、一生懸命働いているのを見て思ったんですよ。バイトしてお金を貯めて遊びに来ている俺はどんだけ恵まれてるのか、自分の時間を無駄にしたら、この子たちに失礼だよなって。その感覚はずっと持っています。そのうえで自分にできることはなにかと言ったら、酪農しかない。足利銀行の支店長から言われた言葉の通り『やめたら終わり』だから、牧場を続けることへの強い思いがありました」

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