未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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使われていない土地を牧場に活用して地域のコミュニティに! 森で暮らす牛たちと描く「酪農」の豊かな未来

文= 川内イオ
写真= 川内イオ
未知の細道 No.257 |27 May 2024
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#6背中を押した、ふたりの言葉

すべての計画をひっくり返したのは、3月11日に発生した東日本大震災。地震の後に起きた原発事故により、牛のエサになる牧場の草から、国の基準を超える放射性物質が検出された。栃木県内ですべての放牧が禁止されるなか、新会社のメンバーから誰ともなく「もう無理だね」「やめよう」という声が上がり、全員が会社を畳むことで合意した。アミタにもその意向を伝え、取引先やそれまで応援してくれた人たちに廃業の連絡をして、挨拶に回った。

そのうちの一軒が、森林ノ牧場から車で10分ほどの距離にある福島県白河市の老舗和菓子屋「大黒屋」だった。震災から数日後、山川さんは以前から牧場のことを気にかけてくれていたオーナーを訪ねた。「この状況だもんね」と廃業に理解を示したオーナーは、山川さんに頼みごとをした。福島は流通がストップしていて、なんの素材も手に入らない。必要な素材の配送先を森林ノ牧場にして、そこから車で運んでもらえないか? という依頼だった。当時、那須までは物流が動いていたため、山川さんは快諾した。喜んだオーナーは、涙ながらに続けた。

「俺、今回の震災の後にいっぱいケーキを作ってるんだ。だって、ケーキ屋はみんな休んでるんだもん。震災だって原発だって誕生日はみんな平等にくるんだよ。俺が作るしかないじゃん。俺は和菓子屋だけど、祝ってやりたい親の気持ちを思ったら、どうしても誕生日ケーキを作りたくてさ。幸せを届けるのがお菓子屋の仕事じゃん!」

オーナーの思いは、震災後、「自分になにができるだろう」と考えていた山川さんの胸に深く刺さった。

それからさらに数日が経ち、山川さんは足利銀行の某支店に足を運んだ。新会社に4000万円の融資を決めてくれた支店長に「やめます」と頭を下げると、予想外の反応が待っていた。

「絶対やめちゃダメ! やめたら終わり。もう一度やるのは無理だよ!」

それは激励でもなく、支店長は明らかに怒っていた。そして、戸惑う山川さんに「4000万円は難しいけど、500万円なら貸せる」と言った。放牧が禁止された時点で事業継続を諦めていた山川さんは、「やめたら終わり」という言葉が頭から離れなくなった。

  • 牛の放牧場。取材の日は雨が降り肌寒かったため、牛たちは屋根のある牛舎に引き上げていた。
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