牛を少しずつ増やしながら、順調に経営を拡大した松原さん。新たな転機は、25歳の時に訪れる。
岩手県が主催する研修で、ヨーロッパに渡ることになった。巡る先は、スウェーデン、デンマーク、イギリスなど数カ国。
「よその国の情報が入る時代じゃなかったから、見るものすベてが新鮮だった」と当時を振り返る。
現地では家族経営が主流で、農地を活用して飼料を自給していた。また牛を増やしすぎず、手の届く範囲で酪農経営をしていた。
日本では、メガファームのように数百頭の牛を管理して経営を拡大する方法も流行ったが、ヨーロッパで見た酪農経営が松原さんの思いと重なった。
「あっちでは乳製品の加工も進んでて、生産者がチーズやバター、ヨーグルトなどの加工品も作っててな。まだ6次産業化なんて言葉がない時代だったけど、この時、自分もいつか自家製ミルクで加工品をつくりたい思ったんだ」
そして、もうひとつ。日本とヨーロッパの「もの」に対する価値観の違いに衝撃を受けた。
「日本は消費の国でしょ。どれだけお金を使って、経済成長をはかるか。でもヨーロッパでは古くから使われてるものを修理しながら大事に使ってた。向こうの人の暮らしぶりや、古い建物を見て、資源を活用したりものを大事にしたりする尊さを感じたんだよ」
ヨーロッパの景色に共鳴した松原さん。自社農場の牛舎に、100年以上前の建物を増改築して使ったり、古電柱(古い木製の電柱)を利用したりと、身の回りにある資源を活用するようになった。
一般社団法人中央酪農会議の「日本の酪農経営 実態調査(2023)」によると、日本の酪農家の85パーセントが赤字経営。それにもかかわらず、松原農場が黒字経営を持続できているのは、松原さんの「消費」に頼り過ぎない経営スタイルの賜物だろう。