松ぼっくりのジェラートは、牛の餌づくりからスタートする。
松原農場では現在、50頭近い牛を飼っていて、重点を置くのは牛の健康管理だ。日本の飼料自給率は25パーセントと低いが、松原農場では飼料のほとんどを自家栽培のとうもろこし(デントコーン)や牧草などで賄う。
餌づくりは、植物の茎や葉まで、すべてを刈り取り細かく粉砕するところから始まる。それをロール状にしてフィルムをかけ、発酵させると、水分や乳酸、食物繊維が多く含まれていて消化にも良く、栄養価が高い飼料「ホールクロップサイレージ」になる。
夏には1日最大2500個が売れるジェラートは、高品質な生乳から生まれているのだ。
「餌がいいと、牛の食いつきも良くなるんだ。牧草のような柔らかい葉だけだと食いつきが悪いし、穀物を与えないとミルクの質や生産性がガクッと落ちる。牛の育て方や餌は農家によってそれぞれだから、ミルクの味ってぜんぜん違うんだよ。俺は、牛も家族だと思ってる。だからなるべく、牛のストレスをなくしたいんだ」
そう話すのは、今年73歳になる社長の松原久美さんだ。松原さんは、「飼料を自給する理由は、牛の健康管理のほかにもある」と続ける。
「農地を活用して自家飼料を作ることが、雫石の景観づくりにもつながってると思うんだよ。牧草地、田んぼ、畑......地域の風景を作り上げるのも、ひとつの仕事なんだ」
使われずに荒れ果てた農地は、地域の景色としてマイナスになる。それならば農地を活用して飼料を自給すれば、一石二鳥だろうと考えた。
松原さんはいま、ジェラート店のほか、地元農産物を販売する直売所「松の実」も経営する。2013年には店舗脇に、四季を感じられるカラマツの遊歩道をつくった。
「人通りもなく不気味なほど薄暗かった」場所を、20万人が訪れる人気スポットに変えた男の半生は、雫石町への愛であふれていた。