衣類の次は「食」の展示があり、ひと通り野口さんの解説を聞いた後、「住居」の展示へ。そこには、「エスキモーの竪穴住居」が再現されている。伝統的な半地下の建物で、1960年代までこのような家に住んでいる人がいたそうだ。なにも知らずに見たら、「ふーん、こんなところに暮らしてたのか」で終わりそうなこの家が、実は外の気温マイナス数十度でも室内を30度前後に保つ性能を持つと知って、仰天した。
仕組みはこうだ。まず、向かって左側の平らになっている部分の端に、住民が出入りする穴がある。穴を降りると短い地下通路があり、再び穴を登って右側の住居部分に入る。この地下通路や家の柱、屋根には流木やクジラの骨が使われる。屋根の上に載せているのは、その地域で採れるコケと土。この独特な家の作りには、知恵が詰まっていた。
「照明と暖房、調理に使われるのがアザラシの脂です。その脂に火を灯すだけで、外の気温がマイナス何十度になっても、室内は30度前後になると言われています。というのも、冷たい空気は下に落ちるので、地下通路に向かいます。土やコケ、そして雪は断熱材として優れているので、部屋のなかは暖かく保たれる。すごく燃料効率のいいエコ住宅なんです」
エスキモーやイヌイットの家といえば雪のブロックで作られたイグルーを想像する人もいるだろう。あれはカナダの中部極北圏の流木すらないようなところに住む人たちの住居で、木材や鯨骨が利用できるエリアでは、ほかの民族でもこの竪穴住居と似たような家が見られるそうだ。それにしても、冷たい空気を地下に逃がし、居住部分は自然の断熱材で快適に保つ。現代の建築や科学的な視点でも合理的なこの工夫を何百年も前に編み出した北方民族、すごくない?