展示室を進むと、最初に目を引くのが北方民族の衣類。トナカイの毛を使ったモコモコの服は、とにかく暖かそう。寒さをしのぐための衣類としてイメージ通りだったけど、民族によってデザインが微妙に違うのが面白い。
意外だったのは、鮮やかな色使い、細やかな刺繍、大胆なデザインが特徴的な祭礼で使う衣服。野口さんによると、「かわいい!」「かっこいい」と感嘆するお客さんも多いそう。寒々しいエリアに暮らす北方の民族も、毎日モコモコしているわけじゃなく、こんなに華やかな服装を着ることもあったのか! 一説では「世界で最も複雑な編み方をしている」と評されているブランケットも展示されているから、博物館で実物を見てほしい。
僕が目を奪われたのは、服の素材。アザラシの腸を使った「腸製服」、サケ、コイ、チョウザメといった大型の魚の皮を使った「魚皮衣」など想像もしない素材で作られた衣類がたくさん展示されているのだ。どちらも防水性を高めるために着用されていたんだけど、作りがとてもしっかりしていて、腸や魚の皮で作られているようには見えない。ここでまた、野口さんの解説に驚きの声をあげてしまった。
「ここにある腸製服、見覚えのあるデザインをしていませんか? アウトドアブランドのパーカーやウインドブレーカーにそっくりですよね。実は、こちらがオリジナルなんです。パーカーは、もともとエスキモーやアリューシャン列島に暮らす先住民アリュートが使っていたものです」
なんと! 今や僕らの日常に浸透しているパーカーのルーツが、エスキモーやアリュートが着ていた服だったとは!
ちなみに、氷に覆われているような北極圏はほかに素材がないため動物の革や魚の皮を衣類にしたけど、南に下ってすこし暖かくなると草木が生えてくる。北海道は北方民族のなかでも緑豊かなエリアだったから、エゾイラクサ(植物)やオヒョウ(木)の皮を使った衣類も作られたのだ。人間がいかに環境に適応し、そこにある素材を活用してきたか、よくわかる。