未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
252

パーカー、ラップにエコ住宅!? 拍手と握手がしたくなる北方民族博物館

文= 川内イオ
写真= 川内イオ/古谷さおり/マエノメリ史織
未知の細道 No.252 |11 March 2024
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#4パーカーのオリジナル

トナカイの毛を使った防寒着。

展示室を進むと、最初に目を引くのが北方民族の衣類。トナカイの毛を使ったモコモコの服は、とにかく暖かそう。寒さをしのぐための衣類としてイメージ通りだったけど、民族によってデザインが微妙に違うのが面白い。

アムール川流域に住むナーナイ族の花嫁衣装(左)と北海道アイヌの男性用礼服(右)。

意外だったのは、鮮やかな色使い、細やかな刺繍、大胆なデザインが特徴的な祭礼で使う衣服。野口さんによると、「かわいい!」「かっこいい」と感嘆するお客さんも多いそう。寒々しいエリアに暮らす北方の民族も、毎日モコモコしているわけじゃなく、こんなに華やかな服装を着ることもあったのか! 一説では「世界で最も複雑な編み方をしている」と評されているブランケットも展示されているから、博物館で実物を見てほしい。

アザラシの腸で「防水ウェア」を作ろうという発想に驚嘆する。

僕が目を奪われたのは、服の素材。アザラシの腸を使った「腸製服」、サケ、コイ、チョウザメといった大型の魚の皮を使った「魚皮衣」など想像もしない素材で作られた衣類がたくさん展示されているのだ。どちらも防水性を高めるために着用されていたんだけど、作りがとてもしっかりしていて、腸や魚の皮で作られているようには見えない。ここでまた、野口さんの解説に驚きの声をあげてしまった。

「ここにある腸製服、見覚えのあるデザインをしていませんか? アウトドアブランドのパーカーやウインドブレーカーにそっくりですよね。実は、こちらがオリジナルなんです。パーカーは、もともとエスキモーやアリューシャン列島に暮らす先住民アリュートが使っていたものです」

なんと! 今や僕らの日常に浸透しているパーカーのルーツが、エスキモーやアリュートが着ていた服だったとは! 

ちなみに、氷に覆われているような北極圏はほかに素材がないため動物の革や魚の皮を衣類にしたけど、南に下ってすこし暖かくなると草木が生えてくる。北海道は北方民族のなかでも緑豊かなエリアだったから、エゾイラクサ(植物)やオヒョウ(木)の皮を使った衣類も作られたのだ。人間がいかに環境に適応し、そこにある素材を活用してきたか、よくわかる。

  • 北海道アイヌの布(左)。言われなければ草木で作っているとわからない。靴(右/撮影:古谷さおり)はサケ皮製。
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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
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