この流れで、言語の話を続けよう。北方民族のなかには、親戚関係にあるような似た言葉を話す先住民族も多い。例えば、「北方アサバスカ諸語」はアラスカとカナダの先住民族に共通する言葉だ。ところが、アイヌはどこの民族とも異なる「孤立した言語」を話していたそう。僕が2006年から4年間住んでいたスペインのバスク地方で話されている「バスク語」も、由来がわからない孤立した言語として有名だ。なぜ? という理由は、長らく研究されているが、今のところ不明。
日本の中世にあたる鎌倉・室町・戦国時代には和人(大和民族)が北海道南部に進出し、交易が盛んになった(北海道庁文化局文化振興課のホームページ参照)。だから、アイヌ語から日本語になったものも、その逆もある。
「アイヌ語から日本語になったものとして、例えばトナカイ、シシャモ、ハスカップが挙げられます。ほかにもいろいろあるんですよ」
調べてみたら、ラッコやオットセイもアイヌ語がもとになっているそう。北海道に生息しないトナカイを表す言葉があるのは、北海道からほど近い樺太に住み、トナカイを飼育してソリを引かせたり、食用にもしていたニヴフ族と交流があったからと言われている。
では、ニヴフ語でトナカイをなんと表すかというと、「tlangi(トゥランギ)」。似てるような、似てないような……(笑)。それにしても、今や日本全国で知らない人がいないようないくつもの言葉のベースがアイヌ語だったなんて、知らなかった! そうそう、アイヌといえば、北方民族博物館では北海道アイヌと、樺太アイヌを分けて展示している。
「北海道のアイヌが、ある時期に樺太に渡ったと考えられているので、関係は深いんです。文化的にも類似してる部分は非常に多いんですが、樺太独自の文化もありますし、紋様なども多少異なります。そういう類似性や違いを感じてもらうのが北方民族博物館の目指すところです」