未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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一人ひとりが宿題を持ち帰る ライフの学校ってなんだろう?

文= 小野民
写真= 小野民
未知の細道 No.242 |25 September 2023
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#2壁を取り払って、誰でもおいで

ライフの学校のさまざまな活動を伝える季刊新聞。現在はスタッフに編集者が並走して制作しているが、ノウハウを学んでいずれ自走する予定だ

まず訪ねたのが、萩の風キャンパス。特別養護老人ホーム、ショートステイ、デイサービスなどの機能を持ち、ライフの学校の本部のような場所だ。老人ホーム然とした佇まいではなく、たしかに「気軽に遊びに」来られる雰囲気を醸し出している。

ちなみに、ちょっと変わっているのは施設名だけではない。ライフの学校を利用している高齢者、障害者などさまざまな人たちのことは、一律に「パートナー」と呼ぶ。「支えあって、学びあって、すべてのひとの『人生』を豊かに」とミッションを掲げるように、登場人物はみな“ともに”生きる関係のなかにいる。

さて、果樹、野菜やハーブも植えられていて、生命力を感じる庭には、入居者の思い出の品や植木、まちの片隅に眠っていた道具がところどころにあって、QRコードで読み込めばその由来が読み込めるようになっている。「嫁入りの庭」と呼ばれるこの場所は、公道に面していて外からもよく見える。

夏の盛りの嫁入りの庭
  • さてこれはなんの木? QRコードを読み込んで答え合わせ
  • 秋保石(あきういし)。近所の家で塀として使われていたのが、1978年の宮城県沖地震で崩れ庭に埋もれていたもの

かつてあった施設と外とを隔てる生垣は、数年前にとっぱらった。視線は閉ざし、玄関もきちんと施錠することが一般的な介護老人施設にあって、最近少しずつではあるが、地域にひらかれた場所が増えてきている。

田中さんの決断は、交流のある神奈川県愛甲郡愛川町「ミノワホーム」に倣った。生垣の破壊は、ライフの学校にとって、新しいかたちの福祉施設になっていくための大事なマイルストーンだった。

そのほかにも地域に解放されている部分は、ハード面ソフト面でいろいろある。たとえば、玄関入ってすぐの駄菓子屋は象徴的だ。店員は入居者。仙台市の謎ルールで学区外の駄菓子屋に行ってはいけない小学生たちは、唯一の駄菓子屋であるこの場所にこぞってやってくる。彼らにとって、その場所がたまたま高齢者施設のなかにあっただけ。けれど、ともすれば年配の人ばかりが行き交う場所において、にぎやかな子どもたちの息づかいが風通しの良さにつながるのだ。

駄菓子屋「かみふうせん」はなかなかの品揃えの良さ
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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。