まず訪ねたのが、萩の風キャンパス。特別養護老人ホーム、ショートステイ、デイサービスなどの機能を持ち、ライフの学校の本部のような場所だ。老人ホーム然とした佇まいではなく、たしかに「気軽に遊びに」来られる雰囲気を醸し出している。
ちなみに、ちょっと変わっているのは施設名だけではない。ライフの学校を利用している高齢者、障害者などさまざまな人たちのことは、一律に「パートナー」と呼ぶ。「支えあって、学びあって、すべてのひとの『人生』を豊かに」とミッションを掲げるように、登場人物はみな“ともに”生きる関係のなかにいる。
さて、果樹、野菜やハーブも植えられていて、生命力を感じる庭には、入居者の思い出の品や植木、まちの片隅に眠っていた道具がところどころにあって、QRコードで読み込めばその由来が読み込めるようになっている。「嫁入りの庭」と呼ばれるこの場所は、公道に面していて外からもよく見える。
かつてあった施設と外とを隔てる生垣は、数年前にとっぱらった。視線は閉ざし、玄関もきちんと施錠することが一般的な介護老人施設にあって、最近少しずつではあるが、地域にひらかれた場所が増えてきている。
田中さんの決断は、交流のある神奈川県愛甲郡愛川町「ミノワホーム」に倣った。生垣の破壊は、ライフの学校にとって、新しいかたちの福祉施設になっていくための大事なマイルストーンだった。
そのほかにも地域に解放されている部分は、ハード面ソフト面でいろいろある。たとえば、玄関入ってすぐの駄菓子屋は象徴的だ。店員は入居者。仙台市の謎ルールで学区外の駄菓子屋に行ってはいけない小学生たちは、唯一の駄菓子屋であるこの場所にこぞってやってくる。彼らにとって、その場所がたまたま高齢者施設のなかにあっただけ。けれど、ともすれば年配の人ばかりが行き交う場所において、にぎやかな子どもたちの息づかいが風通しの良さにつながるのだ。