2023年春、田中さんは、福祉の先進国といわれる北欧の国々の視察に行った。人々が共に暮らして学び合う、デンマークの「フォルケホイスコーレ」という仕組みは、田中さんの指針のひとつ。その実際を見聞きし、いくつかの福祉施設を巡って、なにを思ったのだろうか。
「人生の終わりに対する哲学が、現代の日本とはだいぶ違うと痛感しました。私がしたい看取りのかたちが、デンマークの人々のなかに醸成されている。日本に置き換えていえば、本人が最後にラーメンを食べたいと言えば、家族も、施設も、どうぞっていうのが当たり前。『それが本当の自由、民主主義でしょ』って言ってたのがすごく印象的でした。
すでにそういう状況があるのは羨ましいし、私の14年間を返してって思いもありますよ(笑)。だからデンマークではライフの学校はいらないですよね。逆に日本では、認知症のお年寄りと暮らしたり、障害者と働くカフェのスタッフをしたりする人生の経験を得る仕組みが必要な気がします。特に閉塞感のある今の日本では、です。
それは少し先のことになるかもしれませんが、まずは地道に今やっている活動を続けていきたいですね。目の前のひとりのために行動していたら、まだ見ぬ誰かのためになる。そんな経験をたくさんしてきましたから」
死を見つめて、生き方を考える。さまざまな人と助け合いながら生きる。たくさんの人生と真っ直ぐに向き合ってきたライフの学校へ、ぜひ一度行ってみてほしい。きっと、自分や大切な人たちの人生に対する問いという大事な宿題を持ち帰れるはずだ。