「時速10キロを越えると風を切る感覚になるんですよ」と大場さんに言われて、なるほどと思った。たしかに、自転車を漕いでいると猛暑も忘れられる。
しばらく走ると伊豆沼に到着。残念ながら昨年の大雨の影響で今年は開花が少ないというが、一面に広がる蓮の葉の上に見える薄ピンクの花にはうっとりさせられる。スケールは日本一とも言われる隠れた名所で、その知名度は近年じわじわと上昇中だとか。
「昼になると花は閉じちゃうんですよ。だから朝のうちに来れてよかった。あ、花の香りもしますねえ」と大場さん。
蓮の花の香りって一体どんなだったっけ? 鼻をくんくんさせてみても最初はよくわからなかった。これまで嗅いだこともないような……。わからないと言い出しにくくて、香りを楽しんでいるかのような顔をしてしばらくして、「あ!」と気づいた。
風に乗ってやってきた香りは、一時期、気に入って飲んでいたロータスティーと一緒。そうか、あれも蓮だもんな。もわんと甘い独特の芳香が風に混ざって流れてくる感覚をめいいっぱい味わいたくて、私は鼻で大きく息をしながら走った。