大場さんを先頭に列をなして出発。最後尾では、栗原市役所田園観光課に所属し、毎日自転車通勤という菅原直人さんが、電動自転車でなくロードバイクで見守ってくれる。
走り出してすぐに、田んぼに囲まれた畦道もしくは農道のような場所へ入って行った。ところどころで止まって大場さんが景色について説明してくれる。
「今年は暑いからもう田んぼが黄色くなりかかってますよ」
確かに稲は盛大に伸びて繁り、生命力の塊という感じ。その横を風を切って走っていると、香り、音、車を運転していては気づかない自然から発せられる情報量の多さに、思わず面食らってしまった。草いきれ、虫の鳴き声、時速12キロほどで進む目の前を流れていく景色を味わっていたら、頭のなかの記憶のどこかがうずいている感覚があった。
いつ? どんな時のこと? ちょっとドキドキして、朧げな記憶をかき分けていくと、あ、あった! それは中学生の夏休み。普段はバス通学だったけれど、夏休みだからと、汗をかきながら漕いだ自転車に乗っている感覚だった。
懐かしいなあ。25年前の私が感じた、車通りの少ない道をひとり漕ぐ気持ちよさをくっきりと感じて、走り出して5分と経たないうちに、私の心は大きく揺さぶられてしまった。