吉見さんの話を聞いた後、オスが集まる第1牧場とメスが集まる第2牧場に向かった。自動販売機でエサが売られていて、それを買うと投げ入れることができる。クマたちは、お客さんたちに向かって手を上げたり、口を開けたり、おねだりに忙しい。僕も吉見さんからエサをもらって、投げてみた。
オスはあまり動かず、座ったまま。お客さんのコントロールがいいと、その口にエサがスポっと入る。でもたいていは外れて、周囲に控えるカラスたちが回収していく。横着な感じがオスらしいと思うと同時に、同じオスとして自分を省みる。
オスと比べると、メスは「ちょうだい!」と手招きしたり、拝むように手を合わせたり、アピールする姿が愛らしい。なかには、立ち上がってクルッと一回転してアピールしたり、V字バランスでアピールするメスもいるそうだ。メスの場合、ダイレクトに口に入らなくても、小走りでエサを取りに行く。だからカラスはオスの展示場の周りに陣取っているのだろう。
オス、メス、どちらの展示場も、エサを投げ入れるお客さんと、その様子を写真に撮るお客さんで盛り上がっていた。
僕のお勧めは、冒頭に記した「ヒトのオリ」。強化ガラス越しとはいえ、こんなに近くで巨大なクマと正対できるとは思わなかった。
目の前のクマを眺めながら、僕は考えていた。恐らく、環境エンリッチメントの取り組みを始める前、ヒマを持て余したクマたちは、野生の本能を忘れていたはずだ。でも、飼育動物の“幸福な暮らし”の実現を目指す取り組みが定着した今、牧場で生まれ育ったクマたちも野生のクマを彷彿させるような動きを見せるようになっているという。
のぼりべつクマ牧場の「ヒトのオリ」で、ぜひクマと向き合い、体感してほしい。獣としての威厳を取り戻し始めた、「日本に生息する最大の陸上動物」の迫力を。