札幌駅から特急で70分の登別駅で降りる。そこからバスかタクシーで約15分の登別温泉街に、ロープウェイ山麓駅がある。そこで全長1260メートルのゴンドラに乗ると、あっという間に山頂にあるのぼりべつクマ牧場に着く。
僕の母は北海道出身で、小学生の頃は夏休みに母の実家に行くのが楽しみで仕方なかった。その家には祖父と叔母家族が住んでいて、叔母のふたりの子どもは同世代だったから、よく一緒に遊びに連れて行ってもらった。のぼりべつクマ牧場にも、みんなで行った記憶がある。35年ぐらい前の話なので、おぼえているのは「クマがたくさんいた」という印象ぐらい。その思い出に浸りたくて再訪した……わけじゃない。
動物園や水族館の飼育環境を豊かにするための取り組みを表彰する、「エンリッチメント大賞」というアワードがある。市民ZOOネットワークの主催で2002年からスタートしたこの賞は、「飼育動物の幸福な暮らしを実現するための具体的な方策」を評価、表彰するもので、のぼりべつクマ牧場は2022年、大賞に次ぐ努力賞を受賞した。
ちなみに、大賞は埼玉県こども動物自然公園で、5回目の受賞。北海道旭山動物園と並び、最多受賞を誇る同園の次点ということは、よほどの努力を重ねてきたはず。それが知りたくて、のぼりべつクマ牧場へ向かった。
取材は11時から。少し前についたので、園内をぶらぶらした。山頂駅から出てすぐ右側にあるのは、子グマ牧場。2023年に生まれた5頭が、元気に走り回っていた。ふわふわしたぬいぐるみみたいで、愛らしい。ほかのお客さんも「かわいい!」を連発しながら、写真を撮っている。
山頂駅の正面にあるのは、クマ山ステージ(クマのアスレチック)。ここでは1日2回、10時半と15時からクマのショーが行われる。10時半の回は、お客さんでいっぱい! そのなかから3組、舞台にエサを隠してクマに探してもらうという体験コーナーがあり、飼育員さんが希望者を募ると、大勢の人が手を挙げた。
この日は小さな女の子とお父さん、大学生ぐらいの女性ふたり、小学生の兄弟が選ばれた。それぞれ、クマが見つけづらそうなところにエサを隠す。それが終わると、一頭のクマが登場。ゆったりとした動作ながら、とても器用に手足を使い、丸太の上に登ったり、箱を開けたりしながらお客さんが隠したエサと飼育員さんが予め隠したエサを次々と探し当ててゆく。そのたびに、観客は「わー!」「おー!」と歓声をあげていた。調べてみると、クマは犬よりも嗅覚が優れていて、数キロ先の匂いも嗅ぎつけるそう。すごい!
ショーが終わった後、飼育係の係長、吉見優さんが駆けつけてくれた。吉見さんは、クマの飼育環境を改善する「環境エンリッチメント」の取り組みをけん引する現場のマネージャーだ。ところでなぜ吉見さんは飼育員になり、どういう経緯でクマたちの環境エンリッチメント活動を始めたのだろう?