調べてみると、バタバタ茶は県内でもひとつの集落のみに現存する風習という事がわかった。そこは、北アルプスの朝日岳を望む「蛭谷(びるだん)」という集落。古代から人々を魅了した宝石「翡翠(ひすい)」の産地として知られる、新潟県に接する朝日町の山間部に位置する。
新潟と京都を結ぶ海沿いの国道8号から県道に入った私は、眼の前にそびえ立つ大らかな姿をした山に目を奪われた。初夏でもかなりの雪が山頂を覆う、巨大な山塊。あれが町名の由来になっている朝日岳に違いない。
車はのどかな田園地帯を進み、北陸自動車道と北陸新幹線の高架をくぐった。山が近づくにつれ平野は丘陵地に代わり、里山の風景へと変化した。せせらぎのような小川沿いをさらに進むと小さな谷に出合い、そこが蛭谷だった。それより先に集落は存在せず、一軒の温泉宿が山中に佇むのみ。私はそれほど遠くない過去へタイムスリップしたような、ノスタルジックな気分になった。