「スタジオジブリの映画『かぐや姫の物語』のタイトルバックには、うちの紙が使われていました」と久さん。
映画のスタッフが販売店で久さんの作った料紙を買い求め、のちに「映画に使ってもいいですか?」という連絡が販売店にあったのだそうだ。映画が公開になってから、お客さんづてに「あれはおたくの料紙じゃないの?」という話になり、久さんたちも知ったのだそう。
「基本的に、料紙は作品じゃないんですよ。要はマテリアルなんですよね。使うためのもの」と久さんはいう、
しかし今後また、もしこのようなことがあった時に、依頼者と話し合いながら、作家として素材を作れたら、料紙の可能性はもっと広がるのでないだろうか。そう尋ねた私に、久さんは「そうなったらおもしろいでしょうね」と頷いた。
数年ほど前から久さんは、制作した料紙の展示会を行うようになった。東京から地元の常陸太田まで、さまざまな場所で展示を行なっている。いまでは四季を描いた料紙そのものを、個展のために作ることもあるそうだ。
個展を観にくる人たちのなかには、書を書くための和紙としてではなく、額に入れて部屋に飾るために料紙を買い求める人もいるという。継ぎ紙という手法でつくられた「石山ぎれ」という紙を見せてもらいながら、その人たちの気持ちが私にもよくわかるような気がした。
この紙は15回も染めて部分を作り込むという、非常に手が込んだ紙だ。地には透かしのように、銀の模様がきらりと擦られているのも美しい。素人の私は書を書かずともこの紙を眺めているだけで満足できる。たった1枚で1万7千円もするというこの紙は、まさに紙そのものに美と価値がある。
最近では、料紙をガラスに挟んで文鎮などに仕立てるなど、立体作品としての幅も広がっている。また個展の時は一般の人に技術を知ってもらうために、ワークショップなども行うこともあるという。