未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
234

里山で生み出される雅な紙 知られざるかな料紙の世界

文= 松本美枝子
写真= 松本美枝子
未知の細道 No.234 |25 May 2023
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#3料紙職人としての道

修行時代に久さんが摺った版画

さて、では久さんはどのようにして料紙職人になっていったのだろうか?
「私は高校を出てすぐに、こっちの世界に飛び込んだので」という久さん。

では高校を出てすぐに、この工房で父に弟子入りしたのでしょうか? と問うと思いもよらぬ答えが帰ってきた。
まず、日本書道専門学校で、書のなんたるかを学んだというのだ。ここは書家になるために、書くことに徹する学校だという。「そもそも書がどういうものか、ということがわからないと料紙は作れないんですよ」と久さんは続けた。

書かれてるものの意味や歴史はもちろんのこと、さらには紙の上で墨がどのように伸びるのか、つまり書の書き味ということがわからないと紙は作れない、ということなのだ。料紙とは、ただきれいな紙なだけではなく、その上に美しい書が書ける紙でなくてはいけない。

「お客さんのところにうちの料紙が収まって、それが作品として仕上がった状態になって初めて、終了なんですよ」と久さん。

久さんが彫った版下

久さんは専門学校卒業後、木版画の「米田版画工房」に3年間弟子入りした。ここでは有名な摺師(すりし)だったという故・米田稔氏に職人としての心構えを学んだという。ここで摺(すり)の技術を身に着け、簡単な版下(版画の下書き)も自分で作るようになったというのだから驚きだ。

「そうですね。そこまでひとりでやるっていう人は、なかなかいないですね。うちは、祖父がそもそもひとりで何もかもやる、というスタイルで仕事始めて、父も同じようにやって、そして私も同じようにやって... ということなんですね」

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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
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